◆前回までのあらすじ
多忙な彼氏・亮の仕事用スマホに届いた“エリカ”からの意味深なメッセージ。亮のイベントを訪れた真理恵は、亮とエリカの信頼関係は、言葉にしなくても通じ合えるほどの深さであることを目の当たりにする。
二人きりのディナーは、いつも通り亮の仕事でキャンセルに。深夜になって届いた「今から会える?」というLINEに、いつも亮の空き時間を待っていた真理恵は初めて、返信せずにスマホを伏せるのだった。
▶前回:「今から会える?」深夜のLINEを初めて無視した夜。都合のいい女をやめる31歳女の決断
Vol.5 伝えた本音
木曜、20時08分。
商品企画部のフロアには、私と後輩の健吾くんしか残っていなかった。
デスクの上に広げているのは、社内公募へ提出する企画書だ。
睡眠の質を高める空気清浄機を、単なる家電ではなく、生活習慣を変えるサービスとして海外へ届けたい。書いては消し、消してはまた書く。集中している間だけは、スマホを気にしなくてすむから。
― 亮さんのLINEを最初に無視してから、1週間も経っちゃった。
亮さんからの、いわゆる“追いLINE”が最初に届いたのは、翌朝だった。
『おはよう。昨日、寝ちゃってた?』
既読は付けてしまった。それでも、一度も返事をしていない。
あえて無視しているわけじゃない。
だけど、どうしても返信ができない。自分でも理由がわからないけれど、燃え尽きた、みたいな気持ちなのだろうか。
普段は亮さんの空いた時間に連絡が来て会いに行き、そのままどちらかの家に泊まることが多い私たちだ。
出張先からのLINEもあの通りなくらい連絡頻度は定まっていないから、私が返事をせずに、会いに行かなければ、これだけ時間が空いてしまうことは新しい発見だった。
― 怒っているならそう言えばいいし、会いたくないなら断ればいいのに。
自分でも分かっているけれど、なんて返したとしても結局また、亮さんのペースで進んでしまう気がした。
「飯島さん」
健吾くんに声をかけられ、慌てて画面を伏せる。
「はっ、はい?」
「ここ。初期設定の離脱率、イベントで話してた数字に差し替えます?」
「あー…うん。確かにその方が説得力あるね」
「ですよね。でも…今日はもう帰りましょうか。飯島さん、さっきから同じページを20分は見てますよ」
「いや、見てたっていうか。考えてたの」
「彼氏さんへの返信を?」
ふいに図星を刺され、私は黙った。
健吾くんはそれ以上追及せず、修正版のファイルだけ送ってくれた。こういう時に逃げ道を作ってくれるところが、健吾くんらしいところだ。
「ふーん、既読無視ですか」
「わかってるよ。こんなのダメだって」
「それで、無視して楽になりました?」
帰り支度をしながらいつものように恋愛事情を溢すと、健吾くんはそう尋ねた。
私はやっぱり、答えられなかった。
ー 私、楽になりたくて無視しちゃったのかな。
…多分、それは違う。
楽になりたいだけならばきっとあの夜も、いつもみたいにメイクを直して亮さんのところに駆けつけていたほうが、ずっと楽だったはずだから。





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