◆前回までのあらすじ
出張から帰国した亮が、真理恵の自宅前に突然現れた。渡されたのは土産ではなく、真理恵が挑戦する社内公募の資料なのだった。
亮が去った後、資料の中に亮が仕事用スマホを置き忘れていることに気づく。その画面には、“エリカ”から「亮じゃなきゃダメなの」と意味深な通知が届いていた。
▶前回:忙しい彼と会えるのは、いつも突然で短時間。ガマンが限界に達した女は思わず本音をぶつけたら…
Vol.4 対等な存在
水曜、19時12分。
虎ノ門にあるイベントスペースに、続々と仕事帰りらしい人たちが次々と吸い込まれていく。
受付の奥に掲げられたスクリーンには、『暮らしを変えるウェルビーイングの現在地』という文字。その下に、亮さんたちのスタートアップのロゴがあった。
バッグの中にある黒いスマホを取り出し、指先で確かめる。
月曜の深夜、亮さんが白い紙袋に入れたまま忘れていった仕事用の端末だ。
翌朝すぐに連絡すると、返信は昼過ぎに届いた。
『助かった。もう各方面とはプライベートの番号で連絡取れてるから急がないんだけど、明日の夜に虎ノ門でイベントがあるから、もし来られそうなら持ってきてもらえる?無理ならバイク便手配する』
無理なら、と書いてあるのに、私は今日の仕事を前倒しにした。
スマホを返すだけ。亮さんの仕事を見てみたかっただけ。
― そう。“エリカ”がどんな人なのか、確かめに来たわけじゃない。
自分に言い聞かせて会場へ入ると、ちょうどステージから拍手が起きた。
黒いジャケット姿の亮さんが、海外投資家らしい男性の質問に英語で答え始めるところだった。
― わあ…。亮さんが英語を話すところ、あんまり見たことないかも。
私の感激をよそに、イベントはどんどん進行していく。それもこれも、司会の女性の段取りの良さによるものだろう。
艶のある黒髪。無駄のないネイビーのセットアップ。知的で、華やかで、それなのに決して前へ出すぎない女性は、マイクをもちながら質問の意図を素早く拾い、滑らかに場を回していた。
スクリーンに表示された登壇者名を見なくても分かった。
― ああ、あれが“エリカ”さんだ。
セッションが終わると、彼女は亮さんに何か耳打ちした。
亮さんは資料を見ないまま頷き、瞬時に別々の方向へ動きだす。まるで、次に相手が何をするのか、見なくても分かっているみたいに。
その光景を見ているうちに、手の中にあるスマホが重みを増していくような感覚がした。






この記事へのコメント
真理恵今まで深夜の連絡でも構わなずメイクしてまで会ってたなんて...もっと大事にしてくれる人を見つけた方がいいと思う。 もう少し話の展開をスピードup お願いします。