◆前回までのあらすじ
メーカー勤める真理恵(31)は、商社に勤めながら、起業家、投資家でもある亮(りょう・33)と交際して半年。深夜に呼び出されても「大丈夫」と、笑いながら彼の予定を優先してきた。
半年記念日のデートも亮のシンガポール出張でキャンセルに。「寂しくないふりをしている」と人から指摘されてモヤモヤとしていると、亮から「今、家の前」とLINEが届き…。
▶前回:忙しい彼の短文LINE。「会いたい」の一言を飲み込む31歳女の葛藤
Vol.3 忙しい男は、いつも忙しい
月曜、23時34分。
自宅のドアの前に立っていたのは…本当に亮さんだった。
「ごめん、急に。合鍵もらってるから普通にここまで来たけど、よく考えたら、留守中に勝手に上がってるのは違うかなって」
見慣れた濃紺のコート。片手に仕事用の黒いバッグと、白い紙袋。シンガポールから帰ってきたばかりなのか、シャツの襟は少しよれている。
「…どうしたの?」
「留守みたいだから出直そうかと思った。そしたら今、ちょうど帰って来たから。良かった」
「そうじゃなくて」
― いつ帰ってきたの?
― どうして連絡をくれなかったの?
半年記念日のこと、私は本当に寂しかった。
もっと他に言うことはあるはずなのに、咄嗟のことでこんな一言しか出てこない。
「さっき日本に着いた。今日は美緒さんと飲んでた?」
「どうして分かったの?」
「なんとなく。そんな顔してたから」
「そんな顔してる?」
私は思わずスマホのインカメラで自分の顔をチェックする。亮さんは疲れた顔で笑った。
連絡は短い。予定は変わる。会えない時間の説明はほとんどない。なのにどうしてなのか、こういうことはお見通しなのだ。
…私の本当の気持ち以外は。
「えっと…家上がる?」
玄関の鍵を開け、ドアを開ける。だけどその瞬間、昼間の健吾と美緒の言葉が蘇った。
寂しくないふり。忙しい男にとって都合のいい模範解答。
今ここで、なんでもないような顔をして亮さんを部屋に上げてしまえば、私はまた何も言わないまま受け流してしまう。
― どうしよう。
だけど亮さんは、少しためらった私の迷いを見抜いたかのように首を横に振った。
「いや。出張帰りだから、やっぱり今日は帰るよ。これ渡したかっただけから」
差し出された白い紙袋を受け取る。中に入っていたのは、予想したようなお土産の類ではなかった。






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