「YUME!すごいわ、あなたトレンド一位よ!」
「公子さん…お久しぶりですね」
パイプ椅子に脱力するように座りこんだYUMEを守るように、ともみがその前に立ちふさがった。レッスンにはほどんど顔を見せなかったくせに、今日、晴れの日だけ参加する、そのふてぶてしさにイヤミを滲ませたつもりが、公子は気にする様子もなくスマホのSNS画面を見せつけてくる。
「YUMEの歌はバカ受けすると思ってたけど、リオちゃん、私たちの読み通りね!海外でも超バズってたし、ワールドツアーとかもすぐやれちゃうんじゃない?」
数億円の借金を抱え、闇金融にまで追われている公子は、わかりやすく大金の幻影に酔いしれている。その横で真壁リオが、いつもの無表情のままで言った。
「…まあ、悪くなかったわ。お疲れさま」
「ありがとうございます」
まだぐったりとしているYUMEの代わりに、ともみが頭を下げる。
「1時間後に記者会見だから、YUMEのメイクを直して。なるべくナチュラルにね。ライブの余熱を感じさせるのに、メイクが作りこまれてたら冷めるから」
「はい」
「私との打ち合わせ通りに話すのよ」
突然の病で声を失った孤独な歌姫に、再び手を差し伸べたのが真壁。真壁に支えられたYUMEは、今日奇跡の復活を遂げ、これから世界進出する――それが真壁が描いた美談。
ともみは、「はい」と従順な微笑みを作り、「じゃあ、そろそろ準備してきますね」と、YUMEを連れて楽屋へと戻った。
◆
「それではYUMEさん、どうぞ」
ステージ裏に設営された大型テントの会見場。その簡易ステージの上、長テーブルの中央に真壁が、その左隣に公子が座っている。
そこへ呼び込まれて入場したYUMEは、無数のフラッシュを受けながら真壁の右隣に腰を下ろした。
ともみはテントの天幕際、関係者たちの列に身を滑り込ませ、静かにその瞬間を待っていた。記者席の後方には、佐藤弁護士も待機してくれている。
― ふふ…イラついてるな。
一見無表情のままに見える、真壁の右眉が上がり、YUMEに不満げな視線を送ったのをともみは見逃さなかった。
真壁はYUMEに、このフェスのグッズのTシャツを着るようにと指示していたけれど、YUMEはともみが用意した、品の良いベージュのパンツスーツで現れたからだ。
告発をするからには、きちんとした恰好の方が世間の心証が良くなる、という佐藤のアドバイスを受けたこともあったが、何より、YUMEにフェスのTシャツを着せて自分のチームの一員だと印象づけようとした真壁への反発だった。
「それでは、本日のシークレットアーティスト、見事な復活を遂げましたYUME、今日の復活劇を準備しました総合プロデューサーの真壁リオより、皆様にご挨拶がございます」
司会の声に続きマイクを握った真壁が、穏やかな笑みを浮かべて記者たちをゆっくりと見渡した。
「皆様、本日はありがとうございます。8年前、病によってマイクを置かなければならなかった彼女が、再び私を頼って戻ってきてくれて……こうして世界へ向けて新しい声を届けることができました。これは私と彼女の絆が生み出した奇跡です――」
淀みなく紡がれた虚構の物語を、記者たちがリアルタイムで発信していく。ノートパソコンの乾いたキーボード音が絶え間なく響く中で、真壁は満足気にYUMEを促した。
「じゃあYUME。待っていてくれたファンの皆さんに、あなたからもお伝えして」
無数のカメラのレンズが一斉にYUMEへと向けられる中、YUMEはゆっくりとマイクを握り直して顔を上げた。その瞳が、会場の隅に立つともみへと向けられ、ともみは頷きを返す。
言葉を待つ静寂が、部屋の空気を張り詰めさせる。そして、YUMEの唇が開かれた。
▶前回:「腐った天才が一番質が悪いの」過去の歌声をAIで凍らせようとする女に、生声で抗ったら
▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱
▶Next:9月30日 水曜更新予定
いよいよ最終回 それぞれの道は…







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