TOUGH COOKIES Vol.72

旅先のホテルのスイートルームで明かされた秘密。彼女が捨てられた本当の理由とは

SUMI

受け取ったミチは、その“ルームキー”をそのままともみに渡した。反射的に受け取ってしまったものの思考が追いつかない。

ー スイート?しかも、ラグジュアリーって…。

すぐに駆け付けられる距離に、眠れる場所を確保できれば上出来のはずで(むしろ車中泊も覚悟していた)ポカンと固まったともみにも、ミチは表情を変えない。

「たまにはオレのおごりってことで」
「たまにはって額じゃないはず。なおさらダメですよ」
「どうせ泊まるなら、いい部屋にしたいだろ。そのかわり相部屋だから。今のアイツを1人にしないで欲しい」

ミチの視線が動いた先…ルビーはぼうっと、ただ火の方向を見つめていた。

「部屋に露天風呂もついてる。ともみと2人でゆっくりしてるうちに、アイツも何か話したくなるかもしれないし。無理はさせたくないが、後悔はもっとさせたくない」

悪いな、とわずかに眉を寄せたミチに、何かを頼まれたのは初めてだった。ともみの肩越しにルビーへと向かう視線は痛いほどに優しくて。

恋する人に妹だと言われることは確かに辛い。けれど、ルビーの想像よりも、何倍も、何十倍もミチはルビーのことを想っているのだと、ともみは、切なさと温かさで何とも言えない気持ちになった。


「…とも姉と一緒に旅行するって、ちょっと夢だった。ま、今回は旅行とはいえないかもだけど。でもまあ、これでホントに、ハダカの付き合いってやつ?」

へへへ、と力なく、それでもようやくルビーが笑ったことにともみはホッとする。まだ群青を残す暮れ切らない森を眺めながら聞こえるのは、鳥と虫の鳴き声、木々をすり抜けていく風の音。どこまでも静かだ。

露天風呂は、部屋と同じくらい広いのでは…?というテラスにあった。近くの温泉から引かれた湯は柔らかく肌に優しい。この旅館が位置する標高は1,000m弱らしく、18時も近付けば随分涼しく、湯につかりながらも過剰な汗は出なかった。

女の子とお風呂に入るのは、人生で2度目。アイドル時代の合宿以来だと、YUMEの顔を思い出しながら、まだ月も白いねと見上げたともみに、ルビーがぼそりと呟いた。

「あの人、ほんとにもうダメなんだね」
「ほんとに、って?」
「んー。なんか病院に行く前はさ。ともみさんがあの人の余命の話した時だって『知らねーよ』って思ったし、あんま実感なかったんだよね。なんも響かないっていうかさ」

でも…とパシャリと湯をすくっては戻して波を起こしながら、ルビーは心を整理しているように見えた。ともみは側に置いておいたミネラルウォーターのボトルを手にしてグラスに注ぎ、ルビーにも渡す。

ありがと、と微笑みまた黙り込んだルビーをともみはしばらく待つ。先ほどまでの群青の空は気づけば濃紺に変わり。細い月も輝きだした頃、消え入るような声がした。

「ゆるさなくていい、とかさ。ずるくない?」

この記事へのコメント

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No Name
勿論、ルビーの苦労や寂しく育った事は変わらないけれど、誤解が解けた後最後に本音で話せるならそれが一番お互いのためだよね🥹 そしてミチの粋な計らいが素敵過ぎて.....
2026/07/21 05:598
No Name
ルビーかわいい
ともみ、よく言ってくれたけど
今週も切ないなあ
こんな女の友情うらやましい
2026/07/21 08:247
No Name
私の母は本当に男(とその家族離婚もしてない)と暮らしてたんだけど、学校で私が具合が悪くなって無職だった男が迎えに来てボコボコにされて、こりゃヤバいってことで周囲が動いてくれたんだと思う。施設送り。母は幸せだっただろうな。施設に送られる理由さえ知らなかったんだし。健康の理由ってことになってたから。いいな本当は愛されてたことを知ることができて。ルビーさん、悔いの残らないことを祈ってます。
2026/07/21 07:245

TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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