受け取ったミチは、その“ルームキー”をそのままともみに渡した。反射的に受け取ってしまったものの思考が追いつかない。
ー スイート?しかも、ラグジュアリーって…。
すぐに駆け付けられる距離に、眠れる場所を確保できれば上出来のはずで(むしろ車中泊も覚悟していた)ポカンと固まったともみにも、ミチは表情を変えない。
「たまにはオレのおごりってことで」
「たまにはって額じゃないはず。なおさらダメですよ」
「どうせ泊まるなら、いい部屋にしたいだろ。そのかわり相部屋だから。今のアイツを1人にしないで欲しい」
ミチの視線が動いた先…ルビーはぼうっと、ただ火の方向を見つめていた。
「部屋に露天風呂もついてる。ともみと2人でゆっくりしてるうちに、アイツも何か話したくなるかもしれないし。無理はさせたくないが、後悔はもっとさせたくない」
悪いな、とわずかに眉を寄せたミチに、何かを頼まれたのは初めてだった。ともみの肩越しにルビーへと向かう視線は痛いほどに優しくて。
恋する人に妹だと言われることは確かに辛い。けれど、ルビーの想像よりも、何倍も、何十倍もミチはルビーのことを想っているのだと、ともみは、切なさと温かさで何とも言えない気持ちになった。
◆
「…とも姉と一緒に旅行するって、ちょっと夢だった。ま、今回は旅行とはいえないかもだけど。でもまあ、これでホントに、ハダカの付き合いってやつ?」
へへへ、と力なく、それでもようやくルビーが笑ったことにともみはホッとする。まだ群青を残す暮れ切らない森を眺めながら聞こえるのは、鳥と虫の鳴き声、木々をすり抜けていく風の音。どこまでも静かだ。
露天風呂は、部屋と同じくらい広いのでは…?というテラスにあった。近くの温泉から引かれた湯は柔らかく肌に優しい。この旅館が位置する標高は1,000m弱らしく、18時も近付けば随分涼しく、湯につかりながらも過剰な汗は出なかった。
女の子とお風呂に入るのは、人生で2度目。アイドル時代の合宿以来だと、YUMEの顔を思い出しながら、まだ月も白いねと見上げたともみに、ルビーがぼそりと呟いた。
「あの人、ほんとにもうダメなんだね」
「ほんとに、って?」
「んー。なんか病院に行く前はさ。ともみさんがあの人の余命の話した時だって『知らねーよ』って思ったし、あんま実感なかったんだよね。なんも響かないっていうかさ」
でも…とパシャリと湯をすくっては戻して波を起こしながら、ルビーは心を整理しているように見えた。ともみは側に置いておいたミネラルウォーターのボトルを手にしてグラスに注ぎ、ルビーにも渡す。
ありがと、と微笑みまた黙り込んだルビーをともみはしばらく待つ。先ほどまでの群青の空は気づけば濃紺に変わり。細い月も輝きだした頃、消え入るような声がした。
「ゆるさなくていい、とかさ。ずるくない?」






この記事へのコメント
ともみ、よく言ってくれたけど
今週も切ないなあ
こんな女の友情うらやましい