沈黙の間、ともみの携帯が二度鳴り、その二度目で大輝がようやく体を離した。一度目の着信はルビーからのLINE。YUMEとの対面がどうだったのかを気遣う内容だった。
そしてもう一つは、松本公子からのショートメール。来週の真壁との打ち合わせについてだった。
「真壁ちゃんって超売れっ子じゃない?なのに2日も日程出してくれたので、どちらかで必ず調整をお願いします」
忙しい有名人なのだから、そちらが合わせるのが当然だと言わんばかりの傲慢さ。大輝に「どうした?」と問われて、ともみは自分が顔をしかめていたことに気づく。
「闘いがはじまる、って感じ」
「闘い?」
「人生の正念場…って気がしてる。店のことが絡んでるから、あんまり詳しくは話せないんだけど」
ずっと行方が分からなかったアイドル仲間が見つかったこと。その彼女から復讐の手助けを頼まれたこと。すべてを大輝に聞いてもらえたらいいのに、公子がTOUGH COOKIESの客となってしまった以上、迂闊に口に出せない。言葉を濁したともみを大輝はそれ以上追求しなかった。
「オレも正念場だから、一緒だね。今日で一旦、全ての話を書き終える。他人の評価はともかく…自分自身が納得いくものに仕上がればいいな」
「絶対に仕上がるよ」
今度はともみから、大輝の肩にもたれかかった。深夜の静かな森に咲く秘密の花のような、微かに甘い彼独自の香りに包まれ、胸が高鳴りながらも、どうしようもなく安心する。2人にだけ作用するフェロモンのようなものがお互いを惹きつけ癒しているのだとしたら、ともみの香りを大輝がどう感じているのか知りたいのに、照れくさくて一度も聞けたことはなかった。
ありがと、とともみの頭にキスを降らせ、「あと5分だけこのままでいいていい?」と甘える大輝に、ともみは尋ねてみる。
「さっき……『復讐、やめられない?』って言ってたでしょ?」
「え?オレそんなこと言った?」
「うん、ぼそっと。あれって、セリフ?」
無意識だった、と笑った大輝の振動が直接体に伝わってくる。
「そ、セリフ。今回のドラマって、女子高生と、15歳くらい年の離れた男性が夜の街で出会うところから始まるんだ。女の子はずっと夜の街を点々と彷徨ってたんだけど、その理由は、復讐相手を探してたからで。ようやくその相手が見つかったとき、その復讐を手伝って欲しいと頼まれた男性が、彼女に言うセリフ。でも、いまいちかなぁって」
「いまいち…?」
復讐を手伝う。自分の状況に重なりすぎるその言葉に、ともみの心拍数があがる。けれど平静を装い聞いた。
「いまいち、ってどういうこと?」
うーん…と、大輝はしばらく悩んでから口を開いた。






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