公子の目が怒りに震えても、ともみは笑顔を崩さない。億単位の借金を抱え、もう後がない公子はみすみすYUMEを逃すことはしないはずだ。だから、公子には、YUMEの復讐を成し遂げるための、駒になってもらう。
― 狙うのは、真壁リオの失脚。
YUMEに違法な整形をすすめて人生を狂わせながら、今や世界的プロデューサーとして守られ、何食わぬ顔で栄光を手に入れ続ける、真壁リオの悪事を暴き出してやるのだ。
◆
「復讐、やめられない?」
午前9時すぎ。リビングでノートPCを叩いていた大輝の呟きが、冷蔵庫からヨーグルトを取りだそうとしていたともみの耳に届いた。「どういうこと?」と振り返ってみても、イヤフォンをはめた大輝からの反応はない。
どうやら、脚本の台詞を声に出しただけだと分かるまで、ともみの胸は後ろめたさでざわついていた。
大輝とともみが暮らす部屋は表向き1LDKだが、実は図面に『S』と記される、4畳ほどの小さな部屋があり、大輝が脚本を書く仕事部屋として使っている。けれど昨夜は、リビングで夜通し作業を続けていたようだった。
YUMEと公子との再会に疲弊して帰宅したともみは、大輝が作ってくれた鶏肉と茗荷のレモンパスタを食べた後、早々に眠ってしまった。けれど、1時間ほど前にともみが目覚めた時にも、ベッドに大輝の姿はなかった。
起きてきたともみの分までコーヒーを淹れながら、「今日の夜が締め切りなんだ」と、大輝は疲れた目で微笑んだ。そしてともみの唇に軽くキスを落とすと、またリビングで原稿に没頭している。
ギリシャヨーグルトにブルーベリーと剥いたマスカットを添え、マヌカハニーをたっぷりとかける。大輝のお気に入りだという日本のガラス作家の器は、まん丸ではなく歪んだ楕円の両手に収まるほどのサイズ。透明に近い微かな水色が涼しげで、灼熱の8月にはぴったりだ。
作業の邪魔にならぬよう、大輝の分のヨーグルトをそっと置き、自分はキッチンのダイニングテーブル(というには、小さすぎるけど)で食べよう…と離れようとしたともみの手を、大輝が引いた。
「オレもちょっと休憩するから」
イヤフォンを外して、ポンポン、とソファーの隣を叩く。促されるままに座ると、大輝の表情が輝いた。
ヨーグルトをペロリと平らげた後、大輝は、「ちょっと充電させて…」とともみを後ろから抱え込み、肩に顔をうずめて動かなくなった。少し眠ってきたら?と提案してみても、「ここがいい」と断られた。室温はクーラーで快適に保たれているけれど、ピタリとくっつけばじわじわと熱が高まる。腰に回された手の力も弱くはなく、ともみは心配になった。
「…なんか、あった?」
「んー?なんで?」
「なんとなく?」






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