TOUGH COOKIES Vol.67

7年ぶりに再会した女性に突然「復讐したい」と打ち明けられた理由

SUMI

データでは流出やハッキングの可能性があるからと、紙の報告書をTOUGH COOKIESまで持ってきた“壁”は、本名を名乗らないまま、ともみにそう言った。

光江が懇意にしている情報屋と聞いていたので、熟練のおじさまを想像していたけれど、成人しているのかと聞きたくなるほどの少年にも見えて。消えてしまいそうに薄い体と、眼鏡がずり落ち続ける青白い顔に、日に当たったことがないのでは?と心配になったけれど、淡々と報告を告げる唇だけは、異様に血色が良い。


「ここ半年は、ヤバい筋にもだいぶ金借りちゃってるみたいですから、すんげぇ利息だと思いますよ。そのうち、ポーンと行方不明にでもなるんじゃないっすか?まあ、あの年齢のおばさんでも“中身”は売れるでしょうから」

公子の年齢は、確か40代後半のはずだ。中身、の響きに背筋が震えたことを気づかれぬように、光江に言われていた調査料金を支払おうとすると、“壁”は大げさに怯え、「女帝の関係者から金なんてとったら、うちのボスに殺されるんで」と断られたので、“壁”とは組織なのかもしれない。

受けとった調査報告書には、1枚ずつ番号がふられていてA4用紙で56ページもあった。わずか3日前に依頼したとは思えない量に、その内容にはさらに驚くことになった。会社だけではなく私的にも、何億もの負債を抱えている上に、“ヤバい筋”からの借金とやらは、1つの組織からだけではなかった。日本だけではなく、海外の“ヤバい筋”の名も記されている。

― だからYUMEで稼ぎたくて焦ってるのか…確かに…。

『QUINTZ』は大ブレイク寸前という感じで、“そこそこ”は売れ、全国的な知名度もあった。中でもYUMEの歌唱力はアイドル界の常識を変えるとまで騒がれ、熱狂的なファンも多かった。

だからYUMEが理由をはっきりさせずに脱退した後、YUMEの行方を探す記事はかなり出たし、SNSでも長い間騒ぎになっていたので、解散から6年ほどが経った今でも、話題になり、注目を集めることは間違いない。けれど。

― 何億をも、すぐに回収することなんてできない。

仮に、YUMEが公子と組むことに同意して、大ヒット、大成功したとしても、公子個人が数億を超える利益を得るためには相当な時間がかかるし、その前に“ヤバい筋”に利用される可能性の方が高いだろう。

― とにかく…そんな人に、YUMEを利用させてはいけない。

ともみはそのために、今日ここに来たのだから。スマホを返しながら睨むようになってしまったのか、「やだ、そんな怖い顔しないでよ」と公子がおどけた。

「ともみって、そんなに気が短かったっけ?あ、そっか、夜の商売始めると、血気盛んになるのかもねぇ~」

へらへらと悪びれず、そうだ、飲み物とか買ってくるわ、と公子が部屋からいなくなると、YUMEがぼそりと呟いた。

「ともみさん、夜の商売してるんですか?」

素直な疑問に、素直に返す。

「そうだよ。西麻布でBARの店長やってる」
「BAR?」
「そ、女性限定のBARなんだけど」

ポカンと口を開けたYUMEに、ともみは、ふっと気が緩んだ。

「意外?まあ自分でも、こんな人生になるなんて予想外だったけど…公子さんにも言われたよ、プライドがありそうなのに、よく水商売なんてやってるね、って」

するとYUMEは、「違います」と、慌てて首を振った。

「驚いたのは、そういう意味じゃなくて。ともみさんって、女の子同士って…苦手なんだと思ってたから」
「あ、やっぱり、バレてた?」
「バレますよ。自分にも他人にも厳しかったし…『私たちは仲間ではあるけど、友達じゃないんだから慣れあうのはイヤ』的なこと、散々言われたじゃないですか」

かつてのともみの喋り方を真似たYUMEが笑い、ともみも笑った。

「今も女同士が得意…とはいえないとは思うけど、なんとか頑張ってるよ」
「楽しい、ですか?」
「店がオープンしてまだ半年にもなってないけど、楽しいかどうかは…でも、やりがいは感じてるんだと思う。一緒に働いてくれる子もいるしね」

従業員は2人だけの小さな店だと説明したともみに、YUMEの興味はますます膨らんだようだった。

「女性限定のBARって珍しいですけど、どんなお店なんですか?」

どんなお店と聞かれると…と、ともみは言葉を選んだ。

「店のオーナーはね、何と言ったらいいのか…そうだな、街の守り神みたいな人で」

西麻布の女帝、というパワーワードは伏せることにして続けた。

「私が心から尊敬している女性なんだけど、その彼女がね。だれにも言えない秘密を抱えたり、傷ついてボロボロでどうしようもなくなった女性たちが、ただ話しにこれる場所、孤独を吐き出せる店を作ることになって。

『アンタ、彼女たちの話を聞く役をやってみるかい?』って、私を店長にしてくれた、って感じなんだけど」

YUMEが目を見開き、ともみは照れ臭くなった。

「私に似合わない役だと思ったでしょ?確かに私って、女友達のいない人生だったからさ。最初はいろいろ大変だった。でも、一緒に働いてくれてる子が凄く素敵な女の子で――その子に随分助けられてる」
「女の子に助けられてる?……ともみさんが?」
「そう。店の名前はTOUGH COOKIESっていうんだけど、その子いるから成り立つ店だね。女の子を助けるのが本当に上手なんだよ、その子は」

ルビーのことを思って自然と笑みが浮かぶ。そんなともみから目を逸らすようにYUMEはうつむき、しばらく黙ってから――「お願いがあります」と、顔を上げた。

「私のことも助けてもらえますか?私、公子さんと真壁さんに、復讐したいんです」


▶前回:「まさか…」7年ぶりにインスタでつながった彼女。コメントで知った驚きの事実とは

▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱

▶Next:6月23日 火曜更新予定

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TOUGH COOKIES

SUMI

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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