軽やかに放たれた、復讐と抹殺。
「あら。意外とわかりやすい人なんですね、店長さん」
からかう口調に、ともみは驚きを顔に漏らしてしまったのかと、素直に謝る。
「すみません、子どもっぽくて」
「芸能界で15年以上生き抜いてこられたのでしょう?ならば心とは裏腹な表情のコントロールなど、お手の物のはずでは?」
「今までは、かなり得意な方だと思ってたんですけど…」
紗和子が自分の過去を、しかも子役時代のことさえも調べ上げてきたようだ、ということにざわめきながらも、ともみは今度こそ顔に出さぬようにと穏やかな笑みを作った。
「清川さまのような…この街の皆様には簡単に見抜かれてしまうんですよね」
紗和子でいいですよ、と会話が流れ、ともみは少しホッとした。
「ちなみに、店長さんは…」
「私も、ともみ、と呼んで頂ければ」
「ともみさんは、誰かに裏切られたことは?」
YUMEの泣き顔が浮かんだ。かつてのアイドルグループの仲間。デビューのために整形を強要され、その結果、歌の才能を失い絶望の中で姿を消したYUME。
― 裏切られてはいない。裏切ったのは私、だ。
「ダンテの神曲(しんきょく)をご存じですか?」
紗和子の問いで、苦い記憶から引き戻されたともみが、「詳しくは…」と首を横にふる。「しんきょく、ってことは、ダンテさんの新しい曲ってこと?」と、ルビーの自由過ぎる発想にも、紗和子は「いえ、違います」と全く動じず、真顔で答えていく。
「ダンテという人物…14世紀初頭に活躍したフィレンツェの詩人が書いた叙事詩のタイトルが『神曲』というんです。イタリアでの原題は『神聖なる喜劇』。それを明治時代に森鴎外が『神曲』と和訳しました。のちに交響曲などにもなりますが、元々は言葉による芸術、詩ですね」
詩ってことは、ダンテさんはポエマーさんってことかぁと、のんびりとしたルビーの反応に、紗和子がまあ、そうとも言えますが、と続けた。
「ポエムといっても、壮大に長い詩なので、今風に言うならば小説だと認識してもらっていいと思います。その小説がいくつもの章に分けられているんですけど、その中に、『地獄篇』というチャプターがありまして。
そこに、地獄の中でも最も罪の重い人々…重罪人たちが送られる、最下層の地獄として――氷の地獄の存在が描かれているんですよ」
「氷の地獄?ってことは超寒いってことだよね?地獄って火で燃やされるパターンしかないと思ってた」
ルビーのため口を気にする様子はなく、紗和子は、一般的にはその認識が多数でしょうね、と同意した。
「でも私は、この氷の地獄の描写に惹かれるんです。物語の中でその氷の地獄は、コキュートスと呼ばれていて、そこで罪人たちが氷の中に生き埋めにされるんですが――さて、ともみさん」
ルビーに説明していた紗和子が、長い首を、まるでバレエのターンのようにくるりとともみに向けた。凛とした佇まいは、その姿勢の良さからも来ているのだと改めて気づいたともみに、「ここでクイズです」と、紗和子はほんの少し口角を上げた。
「氷の地獄行きになる、最も重い罪、とは一体なんでしょう?」







この記事へのコメント
ならばあの態度はないわー。ババァとか笑っちゃうとかボケたんか?まで言って失礼にもほどがある。 性格腐ってるから清川が復讐と抹殺された側なのかもね。
若い学生とかが勢いで言うのと違い、ある程度年齢を重ねた人が平気で使うと「人としてどうなのか」と思われる。”日本語” で ババアという言葉はかなり強い侮辱表現。そもそも50代、自分も言われる立場なのに。今迄で一番嫌な女が相談者か。