ややわざとらしい話の転換にはなってしまったが、きっとキョウコのことが心配なのだろうと、宮本なりに気を回したつもりでもあった。
「そうだね、キョウコはともかく、友坂くんには確認してもらった方がいいよね。彼が良ければ、少しだけ様子をのぞかせてもらいたいと伝えてくれる?」
映画監督・門倉崇
宮本が大輝に連絡すると、「僕は構いませんが、キョウコ先生はゾーンに入ってらっしゃる感じです。それでも大丈夫ですか?」との返事を受けたらしく、宮本と崇はスイートルーム階専用のエレベーターに乗り込んだ。
「さっき宮本くんが、2人の相乗効果でいい脚本(ほん)になりつつあるって言ってくれて、ホッとしたよ。2人の脚本家が、ラブストーリーを1話ずつ交換日記のように書いていくというのは、実は簡単なことじゃないだろ?
特に今回は圧倒的にキャリアの差がある2人だ。ベテランと新人。友坂くんはキョウコに遠慮があるだろうし、キョウコは他人のクリエーションに踏み込むことに躊躇するタイプだからさ」
「そうなんですか?お2人とも熱くなって、割とケンカっぽくなってましたよ。僕、何回も止めに入りましたもん」
「…ケンカ?」
崇の眉間が歪んだその瞬間、ポーンという到着の音がした。宮本に、こちらです、と誘導され、エレベーターを降りた崇の喉に、じわり、と熱がこみ上げる。
「…キョウコが、ケンカ?」
「ええ。すごく意外でした。声を荒らげるみたいなことは勿論ないですし、淡々とではありますけど、割と直接的な言葉で意見をぶつける人なんですね、キョウコ先生って。他者のクリエーションに踏み込むことに躊躇してるって感じは全くなかったです。でも友坂先生が特別なのかな。元々キョウコ先生の生徒さんだったんですもんね?」
僕、全然知らなくて、と呑気な宮本を見ぬまま並んで、崇は平静を装った。
「ああ、キョウコから聞いてるよ。友坂くんが生徒だったってことは」
ウソだった。大輝とキョウコの出会いは興信所を使って調べて知った。キョウコの口からは大輝の気配すらも聞いたことがないのだから。
キョウコは元々、コミュニケーションに積極的ではなく、簡単に本心をさらけ出すタイプではない。崇がキョウコと出会って20年ほど経つが、崇以外と口論になる彼女を見たことはないし、仕事現場でも、意見を飲み込みがちなキョウコの心を読み取り、通訳ができるのは崇だけ、だったのに。
「お2人の世界観って今までの作品を見ると、全く違うはずなのに、とても相性がいいんでしょうね。時々、僕すら入っていけない空気感を醸し出すんですよ。お互いを絶対的に信頼している感じが、脚本にもどんどん反映されていっているというか…」
それを崇監督に撮ってもらえるんだから最高の作品になる予感しかしませんよ、と宮本は饒舌なままでカードキーをかざした。軽快な電子音で重い扉の鍵が解ける。「監督いらっしゃいました~」と声を張るその背中を追いながら崇は、引きつりそうになる口元をなんとか笑顔に作り替えた。






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