「…元気で、頑張ってね」
莉乃はうなずき、最後にもう一度微笑んだ。
「あなたもね」
背を向け、キャリーケースを押して歩き出す。
ゲートが彼女を飲み込み姿が見えなくなるのを、遥斗はただ静かに見届けた。
莉乃と出会ったことに後悔など微塵もない。遥斗は莉乃の背中越しに、彼女の幸せを願った。
◆
空港を出た直後、突然スマホが鳴る。ギャル姐からだ。
『莉乃ちゃん今日出発だったって?悲しみとストレスは酒で流すのよ、飲むわよ』
しんみりとした気分を打ち破るような文面に思わず笑ってしまい、誘いに乗ってマンハッタンの店へ向かった。
「で?結局どうなったの?莉乃ちゃんと」
「別れました」
ギャル姐は珍しく眉を下げ、指先でストローをくるくる回す。スカートの裾からのぞく組んだ膝にそっと肘を預け、頬に手を添えたまま、遥斗を静かに見つめた。
「遥斗はさ、自立した女性がいいって言ってたけど、本音は“面倒くさくなくて、自分についてきてくれる都合のいい子”を探していたんじゃない?」
「そういわれると、確かにそうかもしれないです…」
「これからはさ、アンタ自身が変わりたくなるような恋をしなさいよ。まだ若いんだから」
意外にもまっとうで、優しい言葉だった。
が、その後すぐにギャル姐は肩をすくめ、自分の頬を両手で押さえる。
「やだー!あたしがこんな真面目な話をしたら、肌荒れしちゃうじゃん!真面目モードとか、キャラ崩壊しちゃう!」
重い空気を取っ払うように大袈裟なそぶりで言うと、いつものギャル姐に戻った。
「聞いてよ。この間さ、クライアントと真面目な話をしながらカフェで注文して“Kaori”って名乗ったの。そしたら、渡されたカップに“Carrot”って書かれてたのよ。(アメリカではカップに注文者の名前を書く)
しかもその時、オレンジ色のワンピースを着ていたから、まさに私“ギャル姐”じゃなくて“ギャル人参”じゃんって、クライアントと爆笑よ!真面目な話どころじゃなくなったわ。私とうとう、人間どころか生き物でもなくなったわよ」
ギャハハと大口を開けて笑う、ギャル姐の声が、店内に弾けた。
店を出るころには少し気持ちも軽くなっていて、歩きながら夜風を深く吸いこんだ。
そのとき、スマホが再び震える。今度は先輩の二宮からだ。
『遥斗を紹介してほしいって子がいるんだけど、いい?東京でWebデザイナーやってて、めっちゃ可愛いんだわ。連絡先、教えていい?』
莉乃の姿が一瞬脳裏をよぎり、胸が少し痛む。
けれど莉乃はもういない。
少し考えた遥斗は、「いつまでも立ち止まっていられない、前に進もう」と、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
『二宮さんからの紹介なら、断れないですね。ぜひ!』
苦笑いしながら、遥斗は送信ボタンを押す。
― 俺も、まだまだ懲りてないな…。
ニューヨークでは、出会いと別れが分刻みで起きている。
正直、新しい出会いは星の数ほどあり、刺激的で楽しい。
その一方で、別れも多く、切なさもついてくる。
たった一人の誰かを見つけることが難しいのは、世界中どこにいても同じだ。
それでも、ニューヨークの風景や人々はエネルギーに満ちている。
いつも何かを追いかけるように、前へ、前へと進みたくなる。
今日も遥斗は、何かを追い求めるように、ニューヨークの街を歩く。
Fin.
▶前回:「好きだけど、なんか合わない」バリキャリ女子と付き合って半年、28歳商社マンが感じた違和感とは
▶1話目はこちら:「あなたとは結婚できない」将来有望な28歳商社マンのプロポーズを、バッサリと断った彼女の本音とは?







この記事へのコメント
NY在住で国籍が違う人とデートして上手く行かず、日本人コミュニティで紹介してもらったけど、ギャル婆はじめ、変人しかいなかった、でも僕頑張ります!って話?
海外赴任もあるだろうし、日本に戻ることもあるだろうし、NY駐在も期限あるだろうし、その街で出逢った人と男女問わず自然に仲良くなるのではだめなのか?!?!
「恋人を作る」にこだわり過ぎる感じがするお話でした。