「俺も、莉乃が大好きだよ。本当は離れたくないし、できれば続けたいって思ってる。でも…今のキャリアを諦めて、君と一緒にロンドンに行くことはできない。それに莉乃が言う通り、多分俺たちは距離ができたら、きっと今よりもっとすれ違うと思う…」
現状でも、うまくいっているといっても、それは気軽に会える距離にいるからだと二人とも感じていた。自分たちの関係は、触れ合えなければいつか気持ちは冷えてしまうと。
莉乃は一度、テーブルに視線を落とす。指先が震え、それを隠すように両手を重ねた。
「…お互い、欲張りだよね。キャリアも恋人も大事で、どっちも手放したくない。だからきっと、この関係は続かないんだと思う…」
その言葉は胸を刺すような正論で、そしてとても切なかった。
遥斗も莉乃も、お互いに何かを伝えようとして、けれど口を閉ざした。
遥斗と莉乃はとても似ている。だからこそ、お互いの気持ちが手に取るように分かるし、これ以上の言葉は必要なかったのだ。
二人は結局それ以上言葉を重ねず、静かに別れを決めた。
「これから忙しいだろうけど、頑張ってね。助けが必要なら連絡して。いつでもいくよ」
「ありがとう。遥斗も仕事頑張ってね。また連絡するね」
出発までの3ヶ月は「友達として会おう」と約束した。お互いに、すぐに関係を切るには辛すぎた。
だが、結局どちらも誘うことはなかった。会えば未練と後悔が溢れ、もっと苦しくなることが目に見えていたからだ。
遥斗は、胸の奥を鋭く貫くような、これまで一度も味わったことのない痛みに耐えながら、それをかき消すようにただひたすら仕事へ身を投じた。
そして迎えた出発当日の朝、莉乃から届いたメッセージ。
『今日ロンドンへ出発します。これまでありがとう。Love you, Haruto』
忘れようとしていたのに、不意に胸が締めつけられる。
迷った末、遥斗はUberに飛び乗り、急いでJFK空港へ向かった。
スマホで莉乃に電話をかけながら探し回る。出発はまだ先。ただもうゲートの中に入ってしまったかもしれない、と焦りが込み上げる。
「…遥斗…?」
莉乃の声が耳に届き、安堵の息を吐いた時、ゲート前のカフェでキャリーの横に座る莉乃を見つけた。
遥斗に気がついた莉乃は驚いたように目を見開き、すぐに柔らかく笑う。
「来てくれたんだね」
「もちろん」
莉乃はゆっくりと立ち上がると、遥斗を包み込むように寄り添った。遥斗もまた、自分の抱えるすべての感情を伝えるように、黙って彼女を抱きしめた。
「遥斗は、誰よりも誠実で、優しかったよ。私ね、久しぶりに愛される恋愛をした。ありがとう」
「莉乃…」
「私たちいつかまた、世界のどこかで会いましょう(Maybe someday, somewhere in the world, we’ll meet again.)」
その目は赤く、でも晴れやかだった。







この記事へのコメント
NY在住で国籍が違う人とデートして上手く行かず、日本人コミュニティで紹介してもらったけど、ギャル婆はじめ、変人しかいなかった、でも僕頑張ります!って話?
海外赴任もあるだろうし、日本に戻ることもあるだろうし、NY駐在も期限あるだろうし、その街で出逢った人と男女問わず自然に仲良くなるのではだめなのか?!?!
「恋人を作る」にこだわり過ぎる感じがするお話でした。