遥斗の部屋で、抱き合ってマンハッタンの夜景を眺めるだけで、すべてが満たされた気持ちになる。
「大好きだよ」と遥斗が言うと、頬を紅潮させて「I love you, too」と答える莉乃が、この世のものと思えないほど美しい。
小さなずれなど取るに足らない、そう自分に言い聞かせた。
しかし、その小さなずれは、知らぬうちにどんどんと大きくなっていた。
「ねえ、遥斗。今『Refinery Rooftop』のバーにいるんだけど、来ない?」
金曜日の夜、たまたま早く仕事が終わり、莉乃と会うことになった。
久しぶりに会える嬉しさを抱えて待ち合わせ場所に到着すると、十数人の若い男女の集まりの中に莉乃がいた。
すでに何杯か飲んだ後のようで、みんなテンションが高い。莉乃は遥斗を見つけるなり、抱きついた。
「この人が遥斗。私が今付き合ってる人。こっちは大学の友達(Hey guys, this is Haruto. We've been seeing each other for a bit. Haruto, they are my friends from college.)」
みんなが「Hi」と言うなか、一人の男性が言った。
「莉乃、男の趣味変わった?」
冗談を言ったつもりなのだろうが、遥斗はイラッとした。
けれど初めが肝心だと「莉乃の好みを変えるくらい俺には魅力があるんだ」と冗談を返そうした時…。
莉乃が「あんたこそ、女の趣味を変えないとまた二股されて泣くわよ」と皮肉を言い、笑いをかっさらった。
遥斗の出る幕もなく、そのままみんなは大学時代の内輪ネタで盛り上がる。
内容もだが、ネイティブ同士の会話の速さについていけず、遥斗は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
そんなことが何度か続き、せっかく会えると思っても、友達との集まりの中に呼ばれ、遥斗のわからない会話やノリが多く、楽しくなかった。
ある日、また莉乃の友人たちの集まりに呼ばれ、遥斗が正直に言った。
「俺は莉乃ともっと二人で会いたい。莉乃がみんなと会うのはいいけど、俺はそんなに頻繁には行きたくないんだ」
「遥斗にも私の友人たちと仲良くしてほしいの。逆に遥斗は、私を全然友達に紹介してくれないじゃない。なんか、真剣に思ってもらえていないみたいに感じる」
莉乃からすれば、友人に紹介することが彼女として認められることだと言う。
「真剣に思ってるよ。でも、こっちにすごく仲良くしている友達もいないし…」
「今度、会社でバーベキューがあるって言ってたじゃない。そこに連れて行ってよ」
「いや、それは…」と遥斗は濁す。婚約者ならまだしも、彼女を会社の集まりに連れて行く文化はない。
会社の人も気を使うだろうしと考えて断ると、莉乃は拗ねてしまった。
そこから二人の関係はギクシャクしたまま二週間が経った時、急に莉乃からレストランに呼ばれた。
久しぶりに会うので少し緊張して行くと、すでに莉乃が座っている。そして注文するのを待たずに、嬉しそうに口を開いた。
「私、ロンドン転勤が決まったの。多分3ヶ月後には行くと思う」
内心「えっ」と思うが、莉乃のワクワクとした表情を見て「おめでとう」と絞り出す。
「それで、わたしたちのことなんだけど…遥斗はこれからどうしたい?」
遥斗のニューヨーク転勤が決まった時と同じセリフ。今度は聞く側になるなんて、思ってもいなかった。
テーブルの向こうに座る莉乃が、あの時の遥斗と重なって見えた。
▶前回:「家、行ってもいい?」デート中に女性からの思わぬ一言。嬉しいはずの彼が戸惑った理由
▶1話目はこちら:「あなたとは結婚できない」将来有望な28歳商社マンのプロポーズを、バッサリと断った彼女の本音とは?
▶︎NEXT:1月7日 水曜更新予定
最終回:最後に遥斗と莉乃が出した結論とは…?







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