松本まりかが銀座のフレンチで語った女優魂「芝居の苦しみは、生きている実感が一番湧く瞬間」
昨年4月、銀座7丁目にある「虎屋銀座ビル」に『ESPRIT C. KEI GINZA』が開業。コンセプトは、「美食の研究所」だ。
そんな大人の銀座を体現した店に現れたのは、女優の松本まりかさん。機微から強い情念まで見事に表現する彼女は、話題のレストランとどんな共演を見せるのか?
「本物を感じたいときは、答えを求めて“都会の長”銀座へ」
個室での取材にて、松本まりかさんの前に置かれたのは昨年の東京カレンダー12月号。
自身が初表紙を務めた号を嬉しそうに手にとる松本さんに、ちょうど1年前と伝えると、「そんな短期間に(また表紙)いいんですか?」と謙遜してからお礼を口にする。
だが、話を聞くほどに銀座号にこの上ない人選と、こちらが感謝したいほどだった。
「母のいまの職場が銀座にあります。母は私が20代の時にも銀座に勤めていたので、よく連れてきてもらっていて、なじみが深い街です。丸の内線沿いの実家から1本なので、学生時代からたまに来ていました。
最近も母と“銀ぶら”します(笑)。銀座は大人の最先端を常にいっているように思いますし、行くと背筋が伸びます。自分にとって銀座は少し格式が高くて、でも、たまに行かなきゃと思う街。
食事をはじめ一流が集まる場所で、本物を感じたいときは銀座に答えがある気がするからです。“都会の長”みたいな街ですよね」
銀座は浅煎りコーヒー激戦区でもあるが、松本さんは滞在先に豆とミル(コマンダンテ)持参で向かうほど浅煎りコーヒー愛好家。銀座では『グリッチコーヒー』で豆を買い、『ボンゲンコーヒー』に行くこともあるとか。
そして、「シネスイッチ銀座」などの映画館や「GINZA SIX」もなじみ。母親とふたりで遊ぶ銀座には、家庭の食卓の影響もある。
「うちは母が美食家。料理も上手で、祖母の料理も美味しくて、ご飯がぶわ〜っと並ぶ大家族でした。祖母が作るのは田舎料理で、母はもう少し洗練されたものが好き。
銀座に行くときは母がいいお店を選んでくれて、美味しいお店はほとんど母から教わっています。あと、銀座の喫茶店文化、『カフェ・ド・ランブル』も母から教わりました」
松本まりかの美しき感受性と秘めたる俳優魂。
ご褒美として行ったことのある特別なお店だと、母親以外と訪れた所も含め、『鮨 あらい』『しのはら』『鮨なんば』『グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ』など。
続けて「高いばかりの店もあって」と、本音も出た。
「銀座では、高級食材を使ったとても高額なお店もありますが、それよりは良心的で、でも職人みたいな方がやられているお店に惹かれます。銀座値段の中で、価格を抑えながらも本当に美味しい料理を作られているようなお店です。
母も高過ぎるところには行かなくて、最近薦められたのは『ビストロシンバ』でした。銀座の一流店で1万円を超えないお店を見つけたときは嬉しいですね」
母の感覚を受け継ぎ、本物の食に魅せられ、例えば調味料は奮発する。
「天然醸造や昔ながらの製法で、添加物が入っていない、信念を感じるところのものを買うようにしています」とのこと。
きっとモノや料理に込められた職人の想いを敏感に感じとる人。だとしたら、それらは自身の感受性を育む肥やしにもなるのでは?
「それはあると思います。もちろん食に興味がない人は別のところで感受性を育んでいると思いますが、私は食から学ぶことがすごく多いです。
今日のお料理についても先ほど教えていただいたんですが、(小林)圭さんは料理人のお父様が海老フライをよく作っていて、子どもの頃からいつか大きな海老フライを作る夢をもち、あのオマールの海老フライが生まれたそうです。そういうストーリーに感化されます。
あと、例えばカウンターのキッチンだと全部見えてしまうので、作りながら周辺も綺麗にする覚悟が必要。そのうえで美しい所作で、器や内装まで研ぎ澄まし、信念や美学を“ひと皿”に表してくださったときに感動します。
料理としていただくのは最後の頂上の部分で、その下には計り知れない準備があるはず。
芝居も同じだと思います。役者も日常の思考や発する言葉が芝居の“ひと言”に表れるはず。小手先だけで綺麗にやっても表面的になるだけ。普段の生活から考えをもつことが大切だと、レストランに来るとはっと気づかされます。そういうお店が銀座には多いです。
分かってはいるけど人間は怠けてしまう生き物だから、ちゃんとしようってレストランに来て再認識します。“師”みたいな存在ですね。自分の人生や芝居、すべてに影響があります」
「誰かの心を動かせたことが、苦しみの対価ならやるしかない」
まるで職人同士の感受性の連鎖。食体験の価値を知るから、「ただ美味しいと食べたらもったいない気がして、それ以外も感じようとする心はもっていたい。レストランに入って携帯ばかり触っていたら何も感じられないです」とも話す。
普段の積み重ねで養う感受性。集中力を尽くし、それを演技として放出するときは、魂の消費が凄まじいと想像する。昨年大反響を呼んだ『夫の家庭を壊すまで』の“サレ妻”役などそうだろう。
「全部出し切ると、放心状態みたいになります。逃げ出したいほどきついけど、抜け出せたときにしか見えない幸せな景色があります。そのご褒美を見つけられたとき、ドンと成長しているんですよ。
生きている実感が一番湧く瞬間でもあるから、この苦しみは味わい続けないといけないのかも。ただ、それって、みんなが越えていることだとも思っています」
視座が高く、ゴールまでもがくことを肯定する言葉は、他の仕事にも当てはまる。そして、さらなる幸せも。
「やっぱり頑張った作品は、視聴者さんからのフィードバックがものすごいです。“本当に面白かった”“人生が変わった”と。誰かの心を動かせたことが、次への原動力になります。それが苦しみの対価なら、やるしかないです。
表に出る仕事=人に影響がある仕事。プラスの影響を与えられることが、表に出る者の責任と思っているので」
さまざまな職人や料理人が、松本さんの出演作に心動かされたこともあるはず。
分野を越え、信念をもつ仕事が生む好循環は世の中に存在する。銀座に通うひとりの俳優が、そんな密かな人間模様を教えてくれた。
■プロフィール
松本まりか 1984年生まれ、東京都出身。2000年に俳優デビュー。2018年『ホリデイラブ』、2024年『夫の家庭を壊すまで』『ブラック・ジャック』、2025年『奪い愛、真夏』など出演ドラマ多数。2024年には主演映画『湖の女たち』が公開。
■衣装
ワンピース¥327,800〈ヌメロ ヴェントゥーノ/IZA TEL:0120-135-015〉、バッグ¥1,039,500〈デルヴォー TEL:03-6432-9125〉、イヤーカフ¥103,400、ダイヤモンドダブルフィンガーリング¥118,800、ハーフエタニティダイヤモンドダブルフィンガーリング¥385,000、ベゼルダイヤモンドリング¥72,600、プロミスリング¥44,000〈すべてヒロタカ/ヒロタカ 表参道ヒルズ TEL:03-3478-1830〉
▶このほか:「待っているのではなく、自分から求めに行きますね」乃木坂46・梅澤美波のキャプテンとしての思い
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