2024.11.02
表紙カレンダー Vol.123話題となったドラマ『夫の家庭を壊すまで』での迫真の演技でさらにその名を知らしめた女優・松本まりか。
全身全霊で役に向き合い、悩む日々からつかの間、解き放たれた彼女の表情は、少し安堵しているようにも見えた。
今回、熱海でゆったりと温泉に浸かり、シャンパンでのどを潤した彼女の艶やかな素顔とは?
自分の身と心を削ってでも追い求めた、女優・松本まりかの現在
「東京カレンダー」3回目の出演にして、初めて表紙を飾ってくれた。
2020年に初登場した際は「絶対に結果を出す」と強い決意を語った松本まりかさん。ブレイク当初“遅咲き”と呼ばれたことをすっかり忘れてしまうほどの活躍ぶりは周知のとおり。
この日は、ネット上でも大きな反響を呼んだドラマの撮影を終え、熱海の温泉に現れた。
役に合わせて12年ぶりに短くしたという髪がそう見せるのか。軽やかな色気をまとった彼女は、何かが吹っ切れたような表情で意思のこもった眼差しをカメラに向ける。そこにいるのは、素の自分をさらけ出す強さを身につけた“松本まりか”だった。
なにげない風景やささやかな変化にも敏感に反応する“感受性のひと”である。撮影中、たびたび彼女の口から聞かれた「美しい」「素晴らしい」という言葉たち。
露天風呂に浸かりながら秋空を見上げる彼女の頬はしっとりと上気し、しなやかに鍛え上げられた美しい背中からは凛としたオーラが放たれていた。
2024年もドラマや映画への出演が続き、トップ女優への道を着実に歩んできた松本まりかさん。
見逃し配信の総再生回数が異例の数字を記録し、話題を集めたドラマ『夫の家庭を壊すまで』でも主人公の狂気と正気を見事に演じ、役者としての存在感を発揮した。
心から信じていた相手に不倫というかたちで裏切られる主人公を、どう演じるべきか、思い悩む時間に苦しさを感じたこともあったと振り返る。
「不倫はしてはいけない、という誰もが知っていることを、善悪の価値観だけを材料に表現するのは、あまりに道徳的過ぎると思ったんです。
人は誰しも善にも悪にもなり得る。だからこそ、苦しみ傷つき、絶望的な思いをしている人に寄り添いながら、その先にある感情まで演じたかったんです。
例えば、復讐という手段によって生じる後悔とか、悲しみとか。私が演じる役を観て、少しでも共感してもらえたり、前に進むきっかけになれたりするような物語にするにはどうしたらいいんだろうと。
リアリティをもって演じるには私自身も同じ痛みを感じられる人間でいたいけれど、実際に同じ環境に身を置くことはできない。想像を張り巡らせるのは、とても孤独な戦いでした。
共演者やスタッフの皆さんのおかげでやり切ることができたと、いまは少しほっとしています」
「演じることにも自分にも、嘘だけはつきたくないんです」
松本さんが脚光を浴びたドラマ作品では「怪演ぶりが光る憑依型女優」と評されることも多かったが、実はどう演じるべきかを熟考し、緻密に深掘りをしていく“職人気質”。
演技をさらに突き詰めるきっかけとなったのは、今年公開された映画『湖の女たち』に出演したことも大きかった。
「大森立嗣監督は、俳優たちを全肯定して信じ切る演出をされました。愛情を感じる反面、とても大きな責任を感じました。それをきっかけに、私自身の感性を正しく深める必要を感じ、演技をイチから見直すことにしました。
私はうわべだけで演じることはしたくないし、嘘をつきたくない。感性を研ぎ澄まして薄皮1枚で演じているから、いろんなことに敏感になるし、憤りを感じることもあります。
そういうときは、自分はなんのためにこの仕事をしているのかと、原点を見つめ直すようにしています。自己満足ではなく、誰かの心に響く役をいかにやり遂げるか。使命感というと大げさに聞こえるかもしれないけれど、私の中ではそのくらい強い思いで役に臨んでいます。
ただ、根をつめてばかりでは息苦しくなるときもありますよね。だから、今日はご褒美みたいで嬉しかったです。いいお湯に浸かって、少しだけシャンパンもいただいて、ちょっとほろ酔い気分になってしまいました(笑)。
お肉の美味しさはもちろん、活きた伊勢海老を鉄板の上で焼き上げるプレゼンテーションにも驚きました。前菜の盛りつけや器使いも美しくて、すごく気分が華やぎました。美味しさを超えた感動があって、とても素敵な体験の数々に心がときめいて。
嬉しいな、幸せだなと思える感覚をいつまでも持ち続けたい。何歳になっても自ら進んで日常の中に感動を探すのは素敵なことです」
「役者としてひとりの人間として。自分の感性を育みたい」
忙しい日々が続くと、肝心なことを見失ってしまったり、大切なことに気づきにくくなることもある。
そんなときの松本さんの息抜き方法は、どんなものがあるのか?
「私は旅をすることも好きなので、時間があればどこか知らない場所へ行ってみるのもいいですね。
今回のお宿のようなプライベートな温泉で静かに心を休ませたり、そういう過ごし方も素敵だと思います。
なかなかプライベートの時間が取れないときは、ベランダを縁側のようにしてコーヒーを飲むのが最近お気に入りの時間。自分で好きな豆を買ってきて、入れたてを飲むんです。
私はもっぱら浅煎りのコーヒーが好きで、それに気付いてからはいろいろなお店を巡っています。ロケ先で近くのコーヒーショップを検索して行ってみるのも楽しい。これはいい趣味を見つけたぞ、とひそかに喜んでいたところです(笑)。
いろいろ考えすぎて頭と心が疲れてしまうと美しいものを見逃してしまうから、やっぱり自分なりのリラックス方法を知っていたい。
ひとりでも大切な人とでも、こういう素敵な温泉宿に泊まって、美味しいお料理をいただいたりすれば、必ず自分の、相手の本音が見えてくる。そして、きっとまた明日から頑張ろうという気力が湧いてくると思うんです」
揺るぎない信念を持ち、自分の目指す道を進む大人にとって“自分に還る時間”は何にも代えがたいものなのだ。
■プロフィール
松本まりか 1984年、東京都生まれ。2000年デビュー。2024年、『ミス・ターゲット』『夫の家庭を壊すまで』にて2クール連続主演を務める。その全く異なる役柄や、鬼気迫る迫真の演技で話題を呼んだ。2025年1月期ドラマ『最高のオバハン中島ハルコ~マダム・イン・ちょこっとだけバンコク~』へ出演。(2025年1月4日スタート、毎週土曜23:40~放送)。
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