「日曜日はいつも、教会の後に家族とブランチをするのが習わしなの」
「初めまして。成瀬遥斗です」
遥斗は戸惑いながら挨拶をし、席に着く。
遥斗の緊張をよそに、家族はとてもフレンドリーに接してくれた。
父親はニューヨークで、高級インテリア雑貨の輸入販売業者をしているという。
起業家特有の情熱と親しみやすさがあり、数々の局面をくぐり抜けてきた者ならではの自信と風格をまとっていた。
遥斗が打ち解けられる雰囲気を作ってくれ、移民として起業した時の苦労話や、ニューヨークでの暮らしについて面白おかしく語ってくれる。
しかし、初めは和やかな雰囲気だったが、次第に質問が鋭さを増していった。
「日本の商社は世界でも注目されているけど、君の実際の仕事内容は?」
「どのくらい稼いでいるんだい?今後の給与形態は?」
「いずれ日本に帰るのかい?将来はどうするつもり?」
さらに、彼女の母がにっこりと言う。
「もし娘と結婚したら、あなたもカトリックになるのよね?」
笑顔の裏に探るような視線が刺さる。返答に窮する遥斗の心は、次第に重く沈んでいった。
そして翌週、今度はマヤから、教会に一緒に行かないかと誘われた。
― またあの両親と会うのか…。正直、気が重いな…。
マヤのことは好きだ。けれど今すぐ結婚など考えられないし、マヤの両親からの質問に、うまく返答する自信もない。
遥斗は仕事で疲れていることを言い訳に、やんわりと断った。
その瞬間、彼女の表情が険しく曇る。
「あなたは、私との関係を真剣に考えていると思ってた」
「いや、そうじゃなくて、君のことは大好きだし大事に思っているんだけど、まだ時間が必要で…」
必死に言い訳を並べてみるが、マヤの機嫌は直らない。
結局気まずい雰囲気の中、その日はキスもなく二人は別れた。
その後、遥斗が何度かメッセージを送っても、返事は途絶えがちになり、既読もつかなくなっていった。
◆
数週間後。忙しさと気まずさから足が遠のいていたが、遥斗は久しぶりにランニングサークルに参加することにした。
そのとき、遠くに見覚えのある顔を見つけた。
遥斗が心を奪われてきたマヤの笑顔は、身長190センチほどもある屈強な男に向けられ、二人は並んで親しげに笑い合っている。
その後、遥斗には目もくれず、二人でランニングを楽しんでいた。
「別に、俺たちそんな仲じゃなかったし。うん、大丈夫…」
強がってそう呟いてみるものの、胸の奥が痛い。
走り終えた後、一人でセントラルパークを歩きながら、遥斗は思わずため息をつく。
― 恋愛って、難しいな…。
異文化の中での恋愛はとても新鮮で楽しく、そして難しい。それを肌で感じた数ヶ月だった。
ベンチに腰を下ろし、スマホを取り出す。
以前会社の先輩から勧められたマッチングアプリをダウンロードしてみる。
アイコンをタップし、プロフィールを登録した。
「よし…落ち込んでいても仕方ない。次だ次」
ニューヨークの風は肌寒かったが、前に進もうとする遥斗の背を、優しく押した。
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