A1:ちょっかいをかけたい時にDMをしていた。
菜々は最初、仲良しグループのうちの一人だった。僕の前の会社の同期が昔からつるんでいる男女混合のグループがあり、そこに春くらいにBBQに呼んでもらったのがキッカケだった。
しかし当時僕には彼女がいたため、誰に対しても興味がなかった。
でも6月になり彼女と別れることになり、いきなりフリーになった僕。半同棲もしていたため、ショックはかなり大きかった。
そんなタイミングで会に参加したとき、菜々がとても励ましてくれた。
「義樹、別れたの?」
「そうなんだよー。何度経験しても、別れって凹むものだね」
「慣れないよね…ドンマイ。でも義樹なら、すぐに新しい彼女ができるでしょ」
ずっと隣に座って励ましてくれた菜々の優しさに、この時は救われた。
飲み足りなかった僕は「もう1軒行かない?」と誘い、この日初めて、菜々と二人で飲むことになった。
二人で流れ着いた恵比寿のバーを出たのは、25時を過ぎていた。
帰りのエレベーターに二人で乗り込むと、お互いに一瞬無言になり空気が“シン”と止まった。僕が弱っていたせいか酒のせいなのか…、気がついた時には、口付けを交わしていた。
ただ扉が開き、すぐに冷静になった僕たち。
「あ…ごめん」
「いや、こちらこそ」
微妙な気まずい空気を抱えたまま、外へ出る。
慌てて帰ろうとする菜々の後ろ姿からは恥じらいが感じられ、その姿に愛おしさを感じるとともに責任感も芽生え、思わずその後ろ姿に向かってこう叫んでいた。
「菜々、ごめん。でも適当な流れとかじゃないから。改めて、ちゃんとご飯行こう」
そしてこの一週間後、二人で目黒のビストロへ食事に行くことになった。
デート当日、僕は乾杯直後に菜々に謝った。
「この前はごめん。なんか変なことして」
別れたばかりで、僕自身も弱っていたし、菜々の好意に甘えて、酔った勢いもあり最低だったと思う。
しかし菜々は、明るく受け流してくれた。
「やめてよ、こんな所で。しかも別に嫌でもなかったし、義樹は悪いことしてないんだから」
「え、本当に?大丈夫だった?」
「うん。いいよ、もう」
「そっか、良かった。変なことしちゃったかなと思って反省していて」
「別に嫌じゃなかったし…酔っていたとはいえ、嫌いな人とは“あんなこと”しないでしょ」
この言葉を聞いて、菜々が本当に怒っていないとわかり、安堵した。それと当時に、「ん?俺のこと、ナシじゃないってこと?」と、ほのかな期待が胸中をかすめる。
― まぁ向こうは、ただの友達と思っているんだろうな。
そう思いながらも食事を進めてみる。
「義樹ってさ、人たらしだよね」
「そう?菜々もじゃない?」
「私はそんなことないよ」
そして話しているうちに、すっかりいつも通りの関係に戻れた僕たち。その空気感に安心していると、菜々が僕の顔を急に覗き込んできた。
「義樹、今はもう彼女作る気ないの?」
正直、今はどちらでも良い。別に新しく彼女を作ってもいいし、作らなくてもいい。そんな曖昧な感じだ。僕自身も答えは出ていない。
「うーん。そんなにすぐに作ったら、前の彼女に申し訳ないなと思って」
「どんだけいいやつなんだよ」
この日は、そんな会話をして解散となった。
ただこの日を境に、僕は菜々と頻繁に連絡を取り合うようになった。LINEのやり取りもするけれど、暇な時はインスタのDMもし合った。
嫌いな子と、ここまでやり取りはしない。
でも、連絡頻度が高いから好きとも限らない。
僕は、DMをしたりインスタのストーリーにリアクションをしていたが、そこに深い意味はなかった。
この記事へのコメント
僕は酔いを醒ましながら夜の街を歩いて帰った。
えーーーーどういう事?怖いよ。