「…それが事実ですから」
美景が唸るように返し、ともみが皮肉げな笑みで受ける。
「失敗や挫折をしたことのない人なんていません。でも私は、自分の過去を否定する人がキライなんですよ」
「それは…あなたが、おキレイな人生を歩んできたからじゃないの?」
美景がともみを睨んだが、ともみは笑顔を崩さない。
「人生にキレイとか汚いとかあります?そもそも美景さんは、ただ選択しただけだと思うんですけど。女が外見とか…体を使ってのし上がることって、そんなにダメなことなんですか?」
「…何言ってるの?」
「思ったことを、正直にお伝えしてます」
「女が体を売ることが肯定された時代なんてないでしょ」
「もちろん、強要されたなら話は別です。女の子たちが望まない場所で、強制的に働かされるとかは絶対に許せないし、許しちゃダメです。でも、美景さんは、自分で選んだわけですよね?自分の会社を存続させるために、その男性との愛人契約を」
誇れとは言いませんけど…と、ともみは続けた。
「お相手の奥様やお子さんに申し訳なくて自分を責めるならば、まだ理解できます。でも今までのお話を聞いた限り…美景さんはそこには一切反応してない。
自分の過去の選択を——自分でバカにして、“汚れた女”なんて言葉で、自分の人生を貶めて悲劇に酔ってるだけ。そんな人に、私は同情しません。ルビーみたいに優しくないから」
尖った言葉たちが、淡々と、でも容赦なく美景を刺し続けて止まらない。ようやく落ち着いていたルビーが慌てた様子で割り込んだ。
「美景さん、ともみさんって普段はそんなことないんだけど、一度スイッチ入ると、ラップバトルでも始まったの?ってくらいキレッキレで止まらなくなっちゃうの。でも、最高のネキ(姉貴)で、2人は基本的に似てると思うからさ。ね?」
そろそろ本気で“ネキ”と呼ぶのをやめさせようと誓いながら、ともみは、確かに言い過ぎてしまったと反省し、謝った。
「言葉が強くなって申し訳ありませんでした」
いえ、と美景がわずかにその頬を緩めた。
「ただ私は今まで…自分の決断や選択を自分で否定することだけはしないようにしてきました」
「…決断を否定しない」
「はい。自分で選んで起こったことならば、どんなに大きい失敗でも挫折でも、ただその結果を受け入れるように努力します。選択した自分を否定せず、あの時の自分はそうするしかなかったのだと肯定することで、失敗や挫折による後悔も…次へと進むための経験値になってくれるんですよね」
ともみは、美景をまっすぐに見つめなおし、続けた。
「美景さんは、自分の意志で愛人になった。それを相手に強要されたわけじゃない。つまり自分の選択…ですよね?」
「……はい。自分の選択で、無理やりではありません。大金が必要で他に方法がなかった私に、あの人が…条件を提示した。そして私はそれにのりました。迷いがなかったわけじゃありません。でも、その時はその選択しかできなかったんです」
この記事へのコメント
確かにともみの言う通りだわ。
いい商品作ってるなら一旦顧客は離れても徐々に戻ってくる。