港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:外から見たらセレブ夫婦だけど、結婚生活が破綻して10年経っても離婚しないワケ
Customer5:優しい恋人からのプロポーズを受けられない秘密がある兵藤美景・30歳
美景(みかげ)にしがみつくようにして泣きじゃくっていたルビーが、ようやく泣き止んだ…と思ったら、今度はしゃっくりが止まらなくなった。
ともみが苦笑いしながら差し出した水を、ルビーはバツが悪そうに受け取り、美景の真横ではなく、ひとつ間を空けて座った。
言い過ぎたと思っているのか、美景と目を合わせることも気まずい様子で、うなだれたままのルビーが、ともみはなんだかとてもかわいく見えた。
「怒ってくれて…ありがとね」
そう微笑んだ美景の目は濡れていなかった。妹のように可愛がっているルビーにあれだけ感情をぶつけられても、もらい泣きすらしなかったようだ。
― この人も、泣けない人、なのかもしれない。
かつての自分が——光江と出会う前のともみがそうだったように。人前で泣くなど弱みをさらすことだと、痛みを押し殺し続けるうちに、胸の奥のどこかが麻痺して、涙は出なくなるものだ。
― 強くなりたかったから。
もっと気楽に生きるべきだと諭されたこともあるし、ただの強がりだと笑われたこともあるけれど、当時のともみには必要だったし後悔もしていない。
「さっきルビーが怒っていたことなんですが、私も…」
そのタイミングで、大きなくしゃみをしたルビーが、ごめん!とあたふたと慌てた。それを笑いながら、ともみは続ける。
「ルビーは、美景さんが自分を“汚れきった女”と言ったことに怒った。私もその表現にはムカつきます」
美景が唇の端を上げ、自虐的に笑った。
「ですよね、不倫相手から出資してもらってた女なんて嫌われて当然…」
「その笑い方もムカつきますね」
強くなったともみの語気に、言葉を遮られた美景の表情が固まる。
「自分で自分をバカにしたら楽になれるんですか?“汚れ切った女”なんて、随分安っぽい表現で——自分に罰を下した気分にでもなってるんですか?」
この記事へのコメント
確かにともみの言う通りだわ。
いい商品作ってるなら一旦顧客は離れても徐々に戻ってくる。