普段は子どもの話ばかりだが、お酒が入っていることもあり、私たちは夫との出会いや交際期間、出産の時のことなど、プライベートな話題で盛り上がっていた時だった。
「ねぇ由里子ちゃん…こんなこと、話すのもどうかな?と思ったんだけど。聞いてくれる?」
グラスをくるくると回しながら、愛梨がぽつりと話し出すので、私は「どうしたの」と言いながら、少し身を乗り出した。
「この前ね、夫のスマホに見たことのないアプリの通知があったの。たぶんだけど、出会い系っぽいんだよね」
“出会い系”だなんて言葉、久しぶりに聞いたなと思いながら、彼女の顔を見ると笑顔が消えていた。
「通知の内容は見たの?」
私が言うと、愛梨は「ううん。見られなかった」と首を横に振り、グラスに残ったワインを一口飲み干す。
「そっか…それは、モヤモヤするね」
愛梨には悩みなんてないと思っていた。
稼ぎのいい夫に、住まいは麻布十番駅からも近いタワマン。子どもが幼稚園に行っている間は、自由にできて、いつだってネイルが綺麗で、最近は毎日のようにピラティスにも通っているらしい。そんな愛梨が顔を曇らせている。
「そうなの。でも、モヤモヤするだけ。問い詰める勇気もないし、その後の言い合いを想像すると面倒くさいなって。ダメだよね、そんなんじゃ…」
「ううん、わかる。向き合うのってエネルギー使うもんね」
私は素直に愛梨に同意する。その瞬間、少しだけ彼女と分かり合えた気がした。
「そうなの。でも、夫は私のこと見えているのかなぁって、たまに思うんだよね。息子の圭太にしか“可愛い”とか“大好きだよ”って言わないし。って、私も同じなんだけどさ」
愛梨は軽く笑いながら、ピノノワールを追加でオーダーした。
「でもさ、子育てしてる夫婦で、ずっと恋人同士の時の感覚のままラブラブなんです〜!なんて、聞いたことなくない?うちもそうだよ。家族になってしまったんだなぁって。それが、寂しくもあるし、心強くもある。不思議な感覚だよね」
「由里子ちゃんにも、寂しい時があるの?」
「もちろん。あるよ…」
そう。私にもちゃんと悩みがある。しかも、結構重めの悩みだ。
けれど今ここで、その内容を切り出すにはお酒が足りないし、愛梨に引かれる可能性もある。
「そっか、そうだよね」
愛梨が言った後、シェフがタイミングよく赤エビとウニのトンナレッリを出してくれた。
香り高い濃厚なソースに、太めの手打ちパスタがよく絡んでいる。
「ねぇ由里子ちゃん、このパスタすごく美味しい〜!早く食べて!」
「知ってる。美味しいよね」








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でも普通なら通知をOFFしておくだろうけど。