― 絶対に、この人と結婚したい。
それが、正輝くんと出会った瞬間に感じたことだった。
私は幼稚園から高校まで雙葉に通い、上智大学に進学し、社員の8割以上を女性が占める化粧品会社に就職した。はっきり言って男性慣れしている方じゃない。
それなのに結婚願望は人一倍強くて、そのうえ求める理想も高くて…。
そんなことポロッと百貨店の売り場で漏らしたら、仲のいいBAさんに、半ば無理やりマッチングアプリに登録されてしまったのだ。
「むり、むり!私、初対面の男の人といきなり2人で会うなんて」
「大丈夫ですって!今時こんなのフツーですよ。怖かったら走って逃げちゃえばいいんですから。萌香さんみたいな美人さんが3年も彼氏いないなんて、世界の損失です」
「そんな、やめてくださいよぉ。ええ〜…」
そう言われて渋々、たった1人だけ私の方からもLIKEを押してマッチした人と、たった一度だけお茶をすることにした。
そして出会ったのが、正輝くんだった。
「俺、中目黒好きなんだよねぇ」
正輝くんの予約してくれた目黒川沿いのスターバックスからは、ちょうど満開の桜が見渡せた。
3月の透き通るような日差しと、コーヒーの香り。
アプリ上のやりとりで優しい人柄なのはなんとなく伝わっていたけれど、実際に会う正輝くんは、それよりももっと優しさと気配りに満ちた人だった。
想像していたよりも身長が高かったけど、威圧感があるどころか、どこか呑気な雰囲気。
顔も写真で見るよりも親しみやすさがあって、特にくしゃっと笑った顔は、3歳も年上だなんて思えないほど子どもっぽくて可愛らしい。
一緒にいると居心地が良くて、人見知りで会話下手な私でも話題がつきないのは、正輝くんの頭の回転が速いからだということはすぐわかった。
― なんだろう。出会ったばっかりだけど私…この人と結婚したい。
もしも怖い人だったら、走って逃げよう。
そう思って数年ぶりにスニーカーを履いてきた自分が、一気にバカみたいに思えた。
「萌香ちゃん、今日はわりとカジュアルな格好なんだね。アプリの写真だとヒールとかフェミニンがイメージだったけど、今日みたいな感じもすごく可愛い」
そう正輝くんに言われて、正直に「走って逃げるため」と伝えたら、大爆笑してくれたのも嬉しかった。
「でも…。次のデートは、ヒールで来ます」
「どっちでもいいよ。俺は、女の子がスニーカー履いてるのも好き」
そうやって次のデート、また次のデートと会う機会を重ねて、私たちは自然と恋人同士になったのだ。
仕事は外コン。
実家は吉祥寺。
きょうだいはお姉さんが1人いて、好きな食べ物はお肉。
付き合ってからの3ヶ月で、正輝くんのことはだいぶ詳しくなったと思う。
もちろん特に重要だった、将来の奥さんに望むことだってチェック済みだ。
「正輝くんは、将来結婚して家庭を持つことになったら…奥さんには専業主婦になってほしい?それとも共働き希望?」
「どっちでもいいかなぁ。うちの母親は医者だけど、寂しい思いすることもあったからね。今ではすごいと思えてるけど、専業主婦だったら嬉しかったかもなーとも思うよ。
働くにしたって生活のためとかじゃなくて、やりたいことを仕事にしてほどほどに働くとか…。その人らしくやりがいを持って生きられれば、どんな形でも応援したいかなぁ」
その答えを聞いた時、漠然と抱いていた「正輝くんと結婚したい」という想いは、決意に変わった。
― 正輝くんとだったら、私の夢が叶うんだ。
結婚したら仕事はやめて、家族のために家で時間を使いたい。
手の込んだお料理や、きちんとアイロンをかけたシャツを準備してあげたい。
子どもは2人くらい授かって、一緒にお菓子作りやお人形遊びをしてあげたい。
それはみんな、私が両親から、母からしてもらったことだったから。
― 正輝くんって、まるで私の理想の男の人が現実になったみたい。夢みたい…!
3ヶ月間、毎日ずっとそう思ってきた。
だからこそ、ビックリしてしまったのだ。
これまで、会話の中でもたまに登場していた“親友”の存在が──まさか、女の子だったなんて。
この記事へのコメント
莉乃の「正輝はさぁ、こう見えてほんと抜けてるところあるから。ほらあのプロジェクトの時も」
この発言...続きを見るも無神経極まりない。
昔のプロジェクト?あれは莉乃のせいだろ!とか同じ会社で働いてたの?と思うほどお互いの過去とか楽しそう話されて「どう思う?」言われても困る🤷🏻♂️ 挨拶後すぐタメ口、勝手にちゃん呼び。妙に上からな女に感じて、仲良くなりたい気持ちも失せる。
うそーーーーー? 今日は全く全然微塵も気配り無かったけど。
親友親友って莉乃の話を頻繁にしてた時点でもう...