部長は、呼び出す必要もないような簡単な仕事の打ち合わせをしたあと、急に切り出した。
「桜庭さんって、ほんとに頼れるよね」
「…え?えっと」
「僕は、チームに桜庭さんがいるから幸せ者だ。僕の同期なんか、最近の若手をどう育てたらいいかってホトホト困ってるらしいんだよ。でもうちのチームは桜庭さんが、若手のことを引っ張ってくれるから助かってる」
私は「ありがとうございます」と言いながら疑問に思う。
― こんなふうに改まって褒めてくれるって…どういうこと?
もしかしたら。
私の恋が終わったことを、誰かから聞いたのかもしれない。私は、蒼人との関係を社内で公表していたことをいよいよ悔やんだ。
「部長、ありがとうございます。なんというか…すみません」
「う、うん。無理せず、元気にやってくださいね」
― やっぱり。気をつかってもらったのか。
私は深々と頭を下げ、デスクに戻った。
◆
20時すぎ。仕事を終え、エレベーターの中でスマホをチェックする。
LINEの通知が来ていた。
『博俊:今、菜穂の会社の近くにいるんだけど、飲まない?』
元カレ・博俊からのメッセージだった。
― えっ…ちょっと気まずいけど。
先日、突然告白されて断ったばかりなので会うのがはばかられる。
なのに…寂しかったからか、なんでもいいから気を紛らわす先がほしかったからか、私は「いいよ、飲もう」と送っていた。
いずれにせよ、1時間後には博俊と並んで居酒屋のカウンター席に座り、結構酔いがまわっていた。
「相変わらず、しっかりしてるよな。菜穂は」
3杯目のビールを飲んでいるタイミングで、博俊が言う。博俊に、仕事についていろいろと話していたところだった。
「彼氏が結婚してくれないって言ってる菜穂はアレだけど、仕事の話をしてると、素敵な人だなって思うわ。面倒見がよくて、親しみやすい性格で、芯がある感じ、変わってないよな」
「…ありがと」
私たちはそれからもお酒と料理をテンポよく楽しんで、2時間近く会話をする。
そして突然彼は話を中断し、珍しく赤くなった顔でふいに笑った。
「あー菜穂、やっぱりいいわ」
「なにが?」
「菜穂は、どんな話をしてもちゃんと膨らませてくれるし、自然に俺に寄り添ってくれる。菜穂みたいな聡明な人がそばにいてくれたら、どんなにいいかって思っちゃうよ」
博俊は、熱い目で自分を見てくる。
「なあ。菜穂はさ、結局、今の彼とどうなの?“結婚してくれない”あの彼と」
― 別れたよ。なんて、言う必要もないか。
私は黙ってグラスに口をつける。
「菜穂が、その彼と結婚できたらいいねって応援する気持ちもなくはない。ただ、この前も言ったけど、できたら俺は…」
◆
カーテンから光が漏れている。
ボルドーとダークブラウンを基調とした部屋…。
― あー…えっと。
私は、二日酔いの頭痛で目覚め、慌てて体を起こす。
そうだ、あのまま流れで銀座のホテルに来てしまったのだった。
この記事へのコメント
そこのくだりが極めて雑でビックリ! 新しい会社に入って独身のイケメンが多くてひどく驚いたのかな? 最終話で新しく知り合った男とトントン拍子に結婚&ハッピーエンドならレベチでつまらないけど大丈夫かな。