男という生き物は、一体いつから大人になるのだろうか?
32歳、45歳、52歳──。
いくつになっても少年のように人生を楽しみ尽くせるようになったときこそ、男は本当の意味で“大人”になるのかもしれない。
これは、人生の悲しみや喜び、様々な気づきを得るターニングポイントになる年齢…
32歳、45歳、52歳の男たちを主人公にした、人生を味わうための物語。
▶前回:寝室はひとつなのに、もう10年一緒に寝ていない…。妻との会話が子育てしかない45歳夫婦の苦悩
Vol.12 なんでもない日に、花束を
弁護士の52歳、千葉義久の場合
あらゆる種類の人間が集まる街。
それが、東京だ。
そのうえ、ここは渋谷。東京の中でも最も多種多様な人間が、まるでごった煮のように交わり合っている。
本来であればどんな言葉が耳に入ってきても「人は人」とスルーするのが礼儀なのだろう。
それなのに…今夜の僕は、なぜだかスルーできなかった。
「それが大人の愛情表現だろ?いつまでも男女ではいられないだろ!気持ち悪い」
バーで隣に居合わせた、2人連れの男性客の言葉に──気がつけば僕は、偉そうに説教を垂れてしまったのだ。
「気持ち悪くなんて、ないですよ」
「…え?」
「ごめんなさいね、聞こえちゃって。
でも、好きだ、愛してるって言葉にされるのは、いくつになっても嬉しいものですよ」
一体なにごとかと、相手方はさぞお困りになったことだろう。だけど、どうしても言わずにはいられなかったのだ。
別に、相手がどうみても年下だからと、50代の人生の先輩として説教がしたかったわけじゃない。
多分この言葉は、自分自身に言い聞かせていたのだと思う。
愛する人への花束を握りしめた、今の僕自身に。
この記事へのコメント
こういう希望持てる系の最終話は同世代の男性たちに刺さるんじゃないかな。彼女もお金目当てとは程遠い感じだし、いいね。