男という生き物は、一体いつから大人になるのだろうか?
32歳、45歳、52歳──。
いくつになっても少年のように人生を楽しみ尽くせるようになったときこそ、男は本当の意味で“大人”になるのかもしれない。
これは、人生の悲しみや喜び、様々な気づきを得るターニングポイントになる年齢…
32歳、45歳、52歳の男たちを主人公にした、人生を味わうための物語。
▶前回:「記念日には妻とデート」理想の夫で父でもある、45歳経営者の裏事情とは
Vol.9 赤坂の高級鮨店で、味わう孤独
クリニック院長の52歳、磯部寿志の場合
灘の銘酒・櫻正宗を舐めていると、付け台の上に新子の握りが乗せられた。
「新子です。最近は6月には新子が入るようになったんですよ」
「へえ、昔は7月過ぎたら…って感じだったけどね」
赤坂の鮨店。大将と適当な会話を交わしながら、付け台の上の鮨をすぐに口の中へ放り込む。
爽やかな酸味と旨みが舌の上いっぱいに広がり、櫻正宗とえも言われぬ相性の良さだった。
「院長。新子、美味しいですね」
隣の席の結城さんが、僕に向かって微笑む。
もともと女優をしていてもおかしくない美貌の持ち主である結城さんだけれど、彼女が柔らかく微笑んだ時は、その魅力は何倍にも増す。色気…というより妖艶な雰囲気は、とても20代前半とは思えない。
だからといって、僕が彼女を気に入っているのは美貌だけが理由ではない。
僕と同じタイミングで、出された鮨はすぐに食べるのだ。
普通の20代の女の子みたいに料理の写真をパシャパシャとやかましく撮ったりしないところが、なんといっても結城さんのいいところだ。
その時だった。ふと、L字型のカウンターの端にいる他の客と目が合った。
男女の二人連れ。52歳の僕より少し若く見える。おそらく40代半ばの男性と、20代の女性…。
どうやら2人の関係性は、夫婦や恋人同士ではなさそうだ。
僕と結城さんも、そうではないように。
この記事へのコメント
うーん、結城さんは「業務の延長で一緒にお鮨食べてあげてるんだから残業代つけてよ」位思ってるかもしれないね。どうせクリニックの経費で落とすんでしょって。
52歳ではなく72歳かと思うほど。性欲はもうとっくに枯れてしまったようなものだ ? そうなん、早過ぎない?