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TOUGH COOKIES Vol.14

「最低な元カレに仕返しを…」泣き寝入りはしたくない。29歳女の最高の復讐とは

「ラッキーって…つまり今、光江さんに店番を頼んだってこと?」

「だってミチさんが、ともみさんに話したいことがあるらしくて、なんならオレがそっちに行きたいんだけどって言うから。今日は光江さんがSneetにいるみたいだし、だったらちょっとだけ光江さんに店番してもらえばいいじゃん、ってことで」

「…ルビーってほんとすごいよね…」

ミチの話とはなんだろう?と思いながらも、ルビーはなぜこうも光江さんを気軽に扱えるのだろうと、いつもながらに気になった。いくらSneetからここまでが徒歩10分程の距離であっても、西麻布の女帝に店番を頼むことなど、ともみには到底できない。

光江と出会ってもう3年以上が経ち、ともみももう光江を怖いとは思わない。でも光江のように何者にも左右されない堂々とした人生を歩みたいと願い続けている憧れの存在だけに、心の中にはずっと畏怖の念がある、まさに尊い存在なのだ。

「光江さんってどなたですか?」

桃子の問いに、ルビーがあっけらかんと答える。

「この店のオーナーなんだけど、優しいおばあちゃんって感じの人」

― それはだいぶ雑な…個人的見解すぎですよ、ルビーさん。

西麻布の女帝をただ“優しいおばあちゃん”と評するルビーの価値基準にはおそらく誰もが賛同できないが、訂正してむやみに桃子の不安をあおるのも違うよね、と思いながら、ともみはふと気がついた。

― おばあちゃん…、か。

ルビーと光江の出会いや、今に至るいきさつなどをともみは全く知らない。これまであえて詮索することもしてこなかったが、ルビーの光江への懐き方、さらに光江がルビーを信用していることを考えると、2人の関係が自分よりも長いであろうことは元々ともみが想像していたことだった。

もしも光江に子どもを生み育てた経験があるのならば、ルビーの実のおばあちゃんだという可能性もゼロとは言えず…規格外キャラの2人は似ていると言えば似ているのか?おばあちゃんとは言わないまでも親戚の可能性も?などと思考を巡らせていると、インターフォンの音がした。


はいは~いと、ルビーが応答する。オレ、というミチの愛想のない短い声がスピーカーから聞こえると、ともみは動こうとするルビーを制して、カレーを受け取るために店を出た。



TOUGH COOKIESは女性専用BARだ。特に客がいる今、ミチとはいえ男性を店に入れるわけにはいかない。

ともみが1階におりると、ミチが軽く右手を上げて近づいてきた。

「すみません、わざわざ」

カレーが入っていると思われる保温バッグをミチから受け取ろうとしたが、話が終わってから渡すよ、と言われて、TOUGH COOKIESの入るビルの前にある、小さな公園のベンチに2人で座る。

「なんですか、改まって」

ミチのマッチョな長身には小さすぎるベンチで、その長い脚を持て余す様子に、確か、大輝さんより大きいんだよね…と、思わず大輝と比べてしまった。そのタイミングで、大丈夫だったか?と聞かれて慌てる。

「…な、にがですか?」

「今日のお客さん。オレが紹介しちゃったから」

「あ、ああ、お客さんですね。問題ないです。もうお話は落ち着いたので」

大輝にフラれたことがバレたのかと焦ったことをごまかし、なんとかそう答えると、そっか、よかったとミチが呟く。

― いつもさりげないんだよね、気遣いが。

ルビー曰く、「体はマッチョで表情筋はデッド(dead➝死んでる)」というミチの喜怒哀楽は極めて薄い上に口数も少ないが、共に働いた2年の間に、ミチはともみにとっては数少ない信用できる人の一人になっている。

「心配して来てくれたんですか?」

「…まあ、それもあるけど」

そう言うとミチは、ともみをじいっと見つめた。

― 本性探知機。

最初にミチをそう呼び始めたのは光江らしいが、その名の通り、どんな人の本性も見抜くと言われるミチの視線に射貫かれるのは、随分久しぶりだ。ともみが不思議に思っていると、ミチは、今のともみなら大丈夫そうだな、とポケットから何かを取り出した。

「この人が店に来た。ともみがSneetで働いてるって、調べて知ったらしい。ともみに会いたいってさ」

それは名刺だった。受け取ったともみの顔から表情が消えていく。

「…いつ来たんですか?」

「今日。1時間くらい前。とりあえずともみに連絡はしてみるけど、この名刺をどうするかはともみの判断に任せると伝えておいた」

「わかりました。ありがとうございます」

名刺に書かれていた名前は――松本公子(まつもときみこ)。映画やドラマを作る、映像制作会社のプロデューサーであり、ともみが芸能界を辞めるきっかけになった女性だった。


▶前回:「まさか、彼が?」恋人だと思っていた男に裏切られたことを知った29歳女は…

▶1話目はこちら:「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱

▶NEXT:6月3日 火曜更新予定

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この記事へのコメント

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No Name
いい仕返し方法だね。先々桃子の服をAYANOが着て有名になり、永井が悔しがるストーリーも読めるといいなぁ。
ともみの過去も徐々の明かされるんだね、楽しみ。
2025/05/27 05:3232
No Name
長期戦にはなるけど、ルビーが考えた復讐劇は最高だ。まぁ永井のブランドもそのうち淘汰されると思うし。また、ゴーストライターもといデザイナーを雇うにしても桃子レベルは難しいのとそもそも経営不振なだけに。
桃ちゃんはAYANOに着てもらいたい服に集中していればその内泥棒男の事なんてすっかり忘れるんじゃな!? とりあえず、続きを早く読みたい。ルビーと光江さんの関係も気になってる。
2025/05/27 06:1032Comment Icon2
No Name
今回はルビーの優勝!!
2025/05/27 05:3325
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TOUGH COOKIES

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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