あ、もちろん、偽物はクズ男で本物は桃ちゃんのことね、とルビーが続けた。
「桃ちゃんのデザインってさ。今はクズ男に成り下がってるけど、昔は一応一流デザイナーって呼ばれてた人が泥棒するくらいセンスがあってイケてたってことじゃん?」
「…そう、なんでしょうか」
弱々しくうつむいた桃子に、絶対そうだよ~とルビーが続けた。
「アタシもマジで着てみたいもん、“風に抗わない線”の服なんて最高じゃん♡だから泥棒男が作った偽物じゃなくて、桃ちゃんが作る本物が見てみたいなぁって。で、ピピピッっとひらめいちゃったの。アタシの友達にも桃ちゃんの服が好きそうな子がいるんだよねぇ~」
自分の携帯で検索したルビーが、この子なんだけど、と液晶画面を桃子に見せた。
「…え!AYANO(あやの)ちゃんじゃないですか!お友達なんですか!?」
「そ。中学の頃から一緒に遊んでたギャル仲間。いつのまにかカリスマモデルになっちゃったけど、アイツ有名になってもマインドは永遠にギャルっていう、いいヤツでさ。だから“ズッ友”ってやつ?今でも仲良しで、よく遊ぶよ」
AYANO。海外のコレクションにも参加しているいわゆる本物のファッションモデル。
モデルデビューが実はギャル雑誌だったことは有名な話だが、まさかルビーの友達だったとは。ともみは顔には出さずに驚いた。
AYANOは女子高生の時に日焼け肌でモデルデビューした。しかしギャル雑誌の卒業と共に、違う自分に挑戦してみたいと肌を焼くことをやめ、メイクやファッションの路線を変えた。
すると──それまでギャルメイクに隠れていたオリエンタルな美貌が注目を集め、さらに175cmという長身だったこともあり、日本だけでなく海外の有名モード誌にも引っ張りだこに。今や世界のラグジュアリーブランドのアンバサダーを務めるまでになった。
人気ブランドのデザイナーたちもこぞって、AYANOに服を着てもらいたがる。AYANOが「自分のブランドのミューズ」「インスピレーション」だと話すデザイナーも少なくない、まさに本物のカリスマモデルだ。
そのうえ、動画配信や取材などでの飾り気のない言動(本人曰く「生涯ギャル」らしい)が、いわゆる“ギャップ萌え”で親しみやすいと好感度も高く、女性モデルとしては日本一のSNSフォロワー数を誇っている。
「アタシとAYANOって昔から服の好みが似てるからさぁ、たぶんAYANOも桃ちゃんのコンセプトって好きだと思うんだよねぇ。だから桃ちゃんさ、AYANOをイメージした服とかって作ったりできる?」
え…?と桃子が目を見開いて固まった。その視線の先のルビーが、絶対って約束はできなんだけどさ、と続けた。
「桃ちゃんが服を作ってくれたら、それをアタシがAYANOに見せる。で、もしあの子が気に入ったらその服をプレゼントして着てもらってさ、インスタとかに上げてもらうの」
「AYANOさんに、私の服を…?」
― なるほど。
桃子の顔にはルビーの言葉を飲み込めていない困惑が浮かんでいたが、ともみには、ルビーの狙いが見えてきた気がした。
「ルビー、もう少しわかりやすく説明してあげたら?」
そう促すと、ルビーはいたずらっ子のように、にんまりと笑った。
この記事へのコメント
ともみの過去も徐々の明かされるんだね、楽しみ。
桃ちゃんはAYANOに着てもらいたい服に集中していればその内泥棒男の事なんてすっかり忘れるんじゃな!? とりあえず、続きを早く読みたい。ルビーと光江さんの関係も気になってる。