7f81e674c87ce2f3fe6a6366ba1ae7
30歳になりまして Vol.6

「居心地が悪い…」結婚・出産ラッシュの友人を前に、恋愛相談をする30歳独女の気まずさ

「僕のほうがうれしいですよ。先輩とデートできるんだから」

― デート…。

私は、顔がポカポカしてきて、「そんなそんな」と返すだけで精一杯だった。

そして気づけば、1時間半が経っていた。

― ついつい、飲みすぎてしまった。

日本酒を売りにしているお店というだけあって、素晴らしいラインナップだったのだ。座っていても体がフワフワしてくる。

「菜穂さん、そろそろ行きますか?美味しかったですね」

「うん、どれも最高でした」

そう言った私を見て、澤石さんは「相変わらずいい飲みっぷりでした」と笑う。彼も日本酒をゆっくり1合飲んだので、顔が赤い。

お会計は「かっこつけさせてください」と言う彼に甘え、心地いい満腹感のまま店を出た。

「ごちそうさま。いい金曜日になりました」

「よかったです。あの、ちょっと散歩しませんか?」

初夏の風に当たりながら、歩き出す。そのとき、澤石さんの手が私の手をそっと包んだ。


― あ…大きい手。

「…嫌だったら、言ってください」

「え?あ、ううん。嫌じゃ、ないです」

手をつなぐくらいなんだと自分に言い聞かせ、歩く。お互いの中学高校時代の話をしていたら、緊張は解けていった。

そして、5分くらいが経っただろうか。

丸の内仲通りを歩いてしばらくしたところで、澤石さんは速度を落とした。

「あの。桜庭さん」

「ん?」

「僕、桜庭さんのこと好きになりました」

あっけにとられる私をしっかりと見つめながら、澤石さんは言う。

「研修のときから、聡明で、素敵な人だなって思ってはいました。でも、前回飲んでみたら、驚くほど楽しくて。今も、すっごく幸せな気持ちで」

澤石さんは、困り顔になっている。

「それで…。迷惑だったら、聞かなかったことにしてください。早すぎるのもわかってます。でも、僕は、桜庭さんとお付き合いしたいです」

私は必死に、「どうする?」と自分に問う。

まだ2回しかちゃんと話していない。本当に私でいいのだろうか。

そもそも、本気?若いし、結構モテそうなのになぜ私?

たくさん話し合うべきことがある気がしたが、彼のまっすぐな目を見て、私はうなずいてしまった。


「え、付き合ったの?」

4つ下の妹・由佳が目を丸くする。

「うん、付き合った。一昨日」

「…ええ、急展開。そっか、私より1つ年下かあ」

由佳は、パスタを一口味わったあと言う。

「まあ、年の差なんていいか。関係ないよね」

「え、ありがとう…。もっと色々言われちゃうかと思った」

「お姉ちゃんが選んだんなら応援するよ。ただひとつ思ったのは…」

私には、これから由佳が言おうとしていることがわかる。

ダンス部のみんなに澤石さんの年齢を打ち明けたときも、多分みんな同じことを思っていたような気がするから。

「…その人若いから、結婚は考えてないかもねえ」

― ほら、やっぱりそう思うよなあ。

由佳は、思ったことをまっすぐに言ってくれるからいい。私は、パスタを巻いていたフォークを、プレートに寝かせるようにして置いた。

「きっとそうだよね…。由佳の言うとおりだと思う」

5歳差の恋愛なんて、普通なことだと思う。女性が年上というのは珍しいかもしれないが、まあ、ある話だ。

でも、結婚願望がある30歳女性が、25歳と付き合うとなると――婚期が。

「…お姉ちゃん?パスタ伸びちゃうよ」

由佳が、私のグラスに、冷えた水を注いでくれる。

その水を飲み干しながら私は、「考え直したほうがいいかな」と思ってしまうのだった。


▶前回:5歳下の後輩男子に誘われ「サシ飲み」をした30歳女性課長。解散後に来たLINEに困惑したワケ

▶1話目はこちら:「時短で働く女性が正直羨ましい…」独身バリキャリ女のモヤモヤ

▶NEXT:6月18日 水曜更新予定
久々の恋愛を楽しんでみる菜穂。幸せにどっぷり浸っていたら、ある事件が…

あなたの感想をぜひコメント投稿してみてください!

この記事へのコメント

Pencil solidコメントする
No Name
前半の同期会?はもうありきたり過ぎて。でも7人いて子持ち3人だけなら、会話もそこまで「子育て」に偏らないと思うよ😂 一名、夫の海外転勤でロンドンにいる、どういう事? わざわざ帰国して?それとも集まったのは6人で一名ロンドンからzoom参加? 内容が薄いからどうでもいい所が気になったわw
2025/06/11 05:4832Comment Icon1
No Name
相変わらずちょっと変な主人公だな、どうも感情移入出来ん。勝手に付き合えばと思ってしまう。
2025/06/11 05:3422
No Name
簡単に好きになり付き合いたいと言ってくれるのもいいけど、なんだかオチがあるように思えてしまう。 結婚願望が強くて相談所にも入会してたほどなんだから、彼と付き合う前に結婚願望の有無は聞いた方が良かったのにね。妹に言われてようやく気付くって、ちょっと…。
2025/06/11 05:2117
もっと見る ( 21 件 )

30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

この連載の記事一覧