◆これまでのあらすじ
大手IT企業のマーケティング部課長・桜庭菜穂。30歳になった途端に、結婚どころか交際相手もいない自分の現状に、焦りが芽生える。ある日、会社の新人研修に登壇。時短勤務しながら子育てをしている同期と比較され、心がボロボロになり――。
▶前回:「バリキャリ」って言われると、嫌味に聞こえる…。大手IT企業30歳独身女性の本音
Vol.5 会社の先輩を「サシ飲み」に誘う心理って?
「あの、桜庭さん」
「…は、はい?」
社員食堂で一人食事を終えたタイミングで、若い男性社員が突然目の前の席に座ってきた。
― あ。この人…。どこかで見た覚えが。
私は、そうだ、昨日の新人研修にいた人事部の人だと思い出す。
「突然ごめんなさい。人事部の澤石蒼人(あおと)です。あの、昨日はありがとうございました。そしてすみませんでした」
「えっと…なんだっけ?謝っていただくようなこと、ありましたっけ?」
わけがわからずにいると、澤石さんは席に座り直し、少し身をかがめて私に目線をあわせる。
「少しお時間いいですか?…差し出がましいようなのですが、僕、率直に話すと、昨日の新人研修の企画はナシだと思ってたんです」
「え?」
澤石さんは、今どきの俳優にいそうな整った顔をゆがめる。
「2人の人生を比較するような企画ってどうなんだろうって。2人とも頑張って働いたり育児をしたりしているのに、お互いにモヤモヤするんじゃないかなって思ったんです」
菜穂は、どんな表情をしたらいいか迷ってしまう。まさに昨日からずっと「モヤモヤ」しているから。
この記事へのコメント
本を読む人でも残業してるのを2時間も待てるのはすごいこと。
もう謝ったし、人事部全体で決まったことだからこれい事の謝罪のためではないし、女として興味がなかったら絶対にできないことだと思います。良かったね。