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30歳になりまして Vol.4

「バリキャリ」って言われると、嫌味に聞こえる…。大手IT企業30歳独身女性の本音

「強いていうなら年齢かもしれないですが…」

― 絶対に言われると思ってた。

身構える私をよそに、コンシェルジュは白い歯を見せる。

「ご存じだと思いますが、お相手女性に20代を希望される男性も多くて、条件だけで検索されると少しだけ不利かもしれませんが、まだまだ大丈夫です」

とってつけたようなフォローに、私はまた一礼をするしかない。

― ああ…帰りたい。

でも、せっかく来たのだ。私は言われるがまま、タブレットを手に取る。

タブレットには、マッチングアプリよりもだいぶ洗練された、本気度の高いプロフィール写真が並んでいる。その中から、目についた男性を3人選んだ。


相談所を出ると、雨が降っていた。カバンから折り畳み傘を取り出し、空に広げる。

マッチングしたら連絡が来るというが、私はもう、ここのお世話にはなりたくない。

登録料はもったいないが、仕方ない。

― だって。

つい1分前のこと。去り際に、コンシェルジュは言ったのだ。

「今日はありがとうございました。本音をいえば、29歳のうちに来てくれたらもっとよかったのに…。でも菜穂さんは、バリキャリ女子だから、お忙しかったのよね」

彼女の言葉に私は、無言を貫いてエレベーターに乗り込んだ。

「バリキャリ」と言われるたびに、自分が小馬鹿にされている気がするのはどうしてだろう。

― …って私、繊細になりすぎてる?

最近は、なんでも皮肉や嫌味に聞こえてしまう。ちょっと追い詰められているのかもしれない。


翌週。4月から依頼されていた、新人研修の日が来た。

私が登壇する企画の目的は、新人に幅広い働き方を想像してもらうというもの。

そのために、結婚せずキャリアを順調に積み上げている私と、「2人の子どもを育てながら時短で働いている安西さん」を登壇させるという。

私は、一張羅のオーダスーツを着て、指定された会議室の近くに来た。すでに、人事部の社員数名と、安西さんの姿がある。

「すみません、お待たせしました」

「あ!桜庭ちゃん。お久しぶり」

「久しぶり!今日はよろしくね」

久々に会う安西さんは、ゆるい巻き髪に真っ白な麻のワンピースを着ていた。新人研修のときから圧倒的に輝いていた安西さんだが、今も変わらず美しい。

その場で簡単な打ち合わせをしたあと、新入社員がずらりとならんで座っている会議室へと、みんなで足を踏み入れた。

この記事へのコメント

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バリキャリに過剰反応し過ぎ!
2025/05/28 05:1622Comment Icon7
No Name
菜穂の好感度がどんどん下がっていく。
あと、相談所の人もありきたりな描写だけど感じ悪い。青学卒の女性はモテますよって、いやそんな学歴に飛びついてくるような男は無視すればいいし、20代限定で探してる男はこちらから願い下げればいいだけ。
2025/05/28 06:4016
No Name
社食で牛丼をかき込んで5分で食べ終わってるような先輩に話しかけるなんて、相当勇気あるなぁその若い男子。「今度ディナーでも行きませんか? 僕マザコンなんです」なんて言わないでよ😆 なんだかありきたりな展開。その内同窓会で片思いしてた先輩とかに会う? 元彼に連絡? なら過去に何度も読んだ記憶がw 安西さん普通にいい人だったけど、妊娠のお祝いは貰っても困ると言うか逆にお返しとか気を遣わせそうだけど…。なんでも皮肉や嫌味に聞こえてしまう自分が嫌で、プレゼントを贈ったら心の優しい自分に酔えるから?
2025/05/28 05:3111Comment Icon9
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30歳になりまして

「30歳」

その数字は、女性の心に妙に重くのしかかる。

「年齢なんてただの数字」と本人は思っていても、世間がそれを許してくれない。

職場では、つい最近まで若手だったはずなのに、いつのまにか中堅どころになっている。

マッチングアプリだって自動的に30歳になった途端に「いいね」が減った気がする。

気持ちは追いついていないのに、30歳という年齢の重みがが急にのしかかる。

大手IT企業のマーケティング部で、課長職を担う桜庭菜穂は、30歳になって迷いが生じ始めた…。

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