「強いていうなら年齢かもしれないですが…」
― 絶対に言われると思ってた。
身構える私をよそに、コンシェルジュは白い歯を見せる。
「ご存じだと思いますが、お相手女性に20代を希望される男性も多くて、条件だけで検索されると少しだけ不利かもしれませんが、まだまだ大丈夫です」
とってつけたようなフォローに、私はまた一礼をするしかない。
― ああ…帰りたい。
でも、せっかく来たのだ。私は言われるがまま、タブレットを手に取る。
タブレットには、マッチングアプリよりもだいぶ洗練された、本気度の高いプロフィール写真が並んでいる。その中から、目についた男性を3人選んだ。
相談所を出ると、雨が降っていた。カバンから折り畳み傘を取り出し、空に広げる。
マッチングしたら連絡が来るというが、私はもう、ここのお世話にはなりたくない。
登録料はもったいないが、仕方ない。
― だって。
つい1分前のこと。去り際に、コンシェルジュは言ったのだ。
「今日はありがとうございました。本音をいえば、29歳のうちに来てくれたらもっとよかったのに…。でも菜穂さんは、バリキャリ女子だから、お忙しかったのよね」
彼女の言葉に私は、無言を貫いてエレベーターに乗り込んだ。
「バリキャリ」と言われるたびに、自分が小馬鹿にされている気がするのはどうしてだろう。
― …って私、繊細になりすぎてる?
最近は、なんでも皮肉や嫌味に聞こえてしまう。ちょっと追い詰められているのかもしれない。
◆
翌週。4月から依頼されていた、新人研修の日が来た。
私が登壇する企画の目的は、新人に幅広い働き方を想像してもらうというもの。
そのために、結婚せずキャリアを順調に積み上げている私と、「2人の子どもを育てながら時短で働いている安西さん」を登壇させるという。
私は、一張羅のオーダスーツを着て、指定された会議室の近くに来た。すでに、人事部の社員数名と、安西さんの姿がある。
「すみません、お待たせしました」
「あ!桜庭ちゃん。お久しぶり」
「久しぶり!今日はよろしくね」
久々に会う安西さんは、ゆるい巻き髪に真っ白な麻のワンピースを着ていた。新人研修のときから圧倒的に輝いていた安西さんだが、今も変わらず美しい。
その場で簡単な打ち合わせをしたあと、新入社員がずらりとならんで座っている会議室へと、みんなで足を踏み入れた。
この記事へのコメント
あと、相談所の人もありきたりな描写だけど感じ悪い。青学卒の女性はモテますよって、いやそんな学歴に飛びついてくるような男は無視すればいいし、20代限定で探してる男はこちらから願い下げればいいだけ。