「そういう、誰かに守ってもらわないと生きられない、みたいなタイプの女性って、だいたい一人で図太く生きていけるタイプだよ。男の人の、この子はオレが守らないと生きていけないってやつ、ほとんど勘違いだから」
酔いでフワフワと高揚し、思考がもやに包まれても、ともみの話は止まらなかった。むしろ酔えば酔うほど饒舌に鋭くなる彼女の言葉を、大輝は止めも反論もせず、時折「まあその通りなんだけどさ」と相づちを打ちながら、聞き続けていた。だが。
「自分の不幸を武器にする女ってほんとキライ。ズルくて大キライ」
心から忌々しいとばかりにともみがそう吐き捨て、グイっとワインをあおると、大輝は空になったともみのグラスにワインを注ぎ足しながら、困ったように微笑んで言ったのだ。
「ズルくてもいいんだよ、京子さんは」
ズルくてもいい。その一言から大輝の想いがあふれ出したようで、ともみは次の言葉を失った。とてつもない愛の告白を、不意打ちで聞かされたようなやるせなさに、酒のペースはますます上がり…その後のことはあまり覚えていない。ということは。
― まさか…私…寝落ちた?
だとすれば。
「私…どうやって2階まで?」
「んー?」
「暴れたりとか、してない、よね?」
「え~?知りたい?」
うれしそうな意地悪な大輝のからかいは止まらず。ともみの恥ずかしさは加速した。このままではまずい。一刻も早く大輝から離れて冷静になりたいと、元々2泊のプランを用意してくれていた彼には申し訳なかったが、今日中に帰りたいと伝えた。
ともみの申し出をにこやかに承諾した大輝は、もし必要ならとともみに頭痛薬と栄養ドリンクを手渡した。ともみが寝ている間に買いに行ってくれたらしい。
「気持ち悪さが落ち着いて、車に乗れるくらいになったら帰ろう」
大輝の気遣いに甘えることにし、ともみは薬を飲んでしばらく眠り、その日の夜に大輝の運転で東京に戻ってきたのだ。
◆
「ま、それくらい大輝さんの前で素が出せるようになったってことでしょ?それだけで、ともみさんにとって今回の旅行に行った意味がありましたよねぇ。うん、大成功!」
笑うルビーに、ともみが呆れて突っ込む。
「…私の話聞いてた?告白は玉砕、友達になることが決定したって報告なんだけど」
「結果なんてどうでもいいんです。告白できたことに意義があるんだから!」
結果なんてどうでもいいことはないだろう、とともみは苦笑いしながら、疑問を口にした。
「ルビーってそもそも、なんで私が大輝さんのこと…って気づいたの?」
ルビーはなぜか出会ってすぐに、ともみさんと大輝さんって付き合ってるんですか?と聞いてきたのだ。ルビーが、ともみと大輝が一緒にいるのを見たのは、Sneetでのわずか数回だというのに。
「う~ん。ともみさんに気づいたっていうよりは、大輝さんですね。大輝さんに、ともみさんのこと好きなんですか?って聞いたとき、うん、好きだよ~って超軽く返事されて、な~んもなかったことみたいにされちゃったから。
その時にビビビっときちゃった。この2人は付き合ってはいなさそうだけど、ややこしい関係なんだろうなって。アタシ、LOVEの矢印を見抜くの超得意なんですよぉ~」
びしっとピースを決めたルビーに、LOVEの矢印とは何かを聞くと、ドラマなどの人物相関図によくある、恋愛関係を示す矢印のことをさすらしい。
LOVEの矢印とはなんだと呆れながらも、ルビーの勘の良さはともみも認めざるを得ない。“本性探知機”のミチといい、光江の周りには何かしらのセンサーを搭載した人間が集まるようになっているのだろうか。
「アタシって、こと恋愛に関しては的中率ヤバいんですよ。今この2人ってどんな感じなんだろうなっていうのが大体正解しちゃうんで。そのルビー的センサーが、今、ともみさんと大輝さんに新たな反応を感じちゃってるんですよねぇ」
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