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TOUGH COOKIES Vol.9

「彼女になりたい」曖昧な関係に終止符をうつべく告白した28歳女。男の返事は意外なもので…

最初はその誰かとは、宝のことだとともみは思った。大輝の告白を断り、今は結婚して海外で暮らしているらしい。無邪気に疑いを知らず、存在しているだけで周りに大切にしてもらえる愛されキャラ。自分とは正反対のタイプである宝がともみは正直苦手なのだが。

大輝にとって宝への思いは既に過去のものとなっていることを、Sneetのカウンターでの愛と大輝の会話からなにげなく知った。そしてもう一つ。どうやら大輝の想い人というのは人妻のようだということも。

初めて2人きりで酒を飲んだ日に、珍しくテンション高く大輝が酔い、そして饒舌になったのだ。

「彼女もう、オレのこといらなくなったみたい。離れたりくっついたりって時期はあったけど、でもやっぱりお互いが必要で、もう離れないって約束したはずだったのに。

オレって呪いでもかけられてるのかって思うよ。本気で好きになった人とは絶対にうまくいかないっていう呪い」

行かないでって縋ったけどダメだったなぁ、とケタケタと笑いながら大輝は目を伏せた。そしてしばらくの沈黙の後、その憂いを帯びた投げやりな視線が、ゆっくりと自分に向けられた時、ともみはその美に浮かされたように仕掛けたのだ。

「あの日さ、ともみちゃんが、今日は帰しません、絶対1人にさせない、って言ったの、かなりのパンチラインだった。帰りたくない、じゃなくて、帰しません、だよ。オレ、女の子にそんなこと言われたの初めてだったから」

大輝がグラスをゆっくりと回すと、薄い黄金色の液体の波にテラスの照明がキラ、キラ、と反射する。その小さな光の連続をしばらくみつめたあと、大輝はグラスに口をつけることなく言った。

「あの言葉にやられて、慰められたくなったの。この強くて強引な女の子に抱きしめられたい。慰めてもらいたいって。その誘惑に負けちゃった」

誘惑に負けたのはこちらの方だと言いたい。出会って以来負け続けているのだから。でもともみがそれを口にできなかったのは、大輝の顔が悲し気に歪んだからだった。


「…大輝さん?」
「ごめん」
「ごめん、って…?」

和やかに落ち着き始めていた心臓がドクンと跳ね、喉奥から何かがせりあがる。大輝の瞳が揺れ、唇が動く様子がまるでスローモーションのように、ともみには見えた。

「誘惑に負けちゃだめだった。甘えちゃだめだった」

― ああ、やっぱり。

「ごめん。ともみちゃん、ほんとにごめん」

― 何とか笑え、私。

告白すれば結果がどうであれすっきりするなんてウソだ。全くすっきりなんてしないし。胸の痛みも、恥ずかしさも増すばかりで、やっぱり今すぐ逃げだしたい。でもともみは意地でも…微笑んでみせる。

この記事へのコメント

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No Name
本当は二人が付き合う展開を希望していたけれど仕方ないよねぇ。いつの間にか涙は溢れて止まらないのはすごく好きだった証拠だね。以前自分がフラれた日の事を思い出してしまったわ。
2025/04/17 06:3631Comment Icon2
No Name
そうなのね、超残念。割り切った関係から彼女になるのはやっぱり難しいのか。にしてもアオハル&この連載は謎にアンチが多いけど先週辺りからコメント欄の治安が悪くなっていてガッカリ。
2025/04/17 07:1225Comment Icon1
No Name
断られてもめげずに誘い続けたから大輝もともみに心を開いて気軽に遊べる友達になれたんじゃないかな? そう直ぐには思い出に変えられないとは思うけど、落ち着いたらまた普通に友達付き合いは出来ると思うから...。 しかしあの京子さんだったか…人妻の、生きてるのかい?もう離れないって約束したはずだったのにって。
2025/04/17 05:3822Comment Icon10
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TOUGH COOKIES

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが

その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

心が壊れてしまいそうな夜。
踏み出す勇気が欲しい夜。

そんな夜には、ぜひ
BAR TOUGH COOKIESへ。

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