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運命なんて、今さら Vol.14

34歳で彼女と初めての海外旅行。男が旅行中ずっとソワソワしていたワケ

寿人が結海にプロポーズをしたのは、2人で行ったヨーロッパ旅行でのこと。

「ヨーロッパは初めて」だという結海は、終始かわいくはしゃいでいた。

反対に寿人は、最終日にプロポーズをすると決めていたから、終始不安でソワソワしていた。

セーヌ川沿いで指輪を渡したときの、あの弾けるような笑顔に、一気に救われたのを思い出す。


隣にいる結海に、心の中でつぶやく。

― 出会ってくれて、ありがとう。

あの日、静岡のキャンプ場に行って本当に良かった。そうじゃなかったら今頃、どうなっていただろう。

幸せに暮らしていたとは思うけれど、こんなに誰かを愛しく思う気持ちには、一生出会えなかったと寿人は思うのだ。

「ねえ、寿人?」

結海が、小声でささやく。

「ん?」

「ありがとうね。出会ってくれて」

「…僕もいま、そんなことを考えてた。僕のほうこそ…」

感謝を言おうとしたが、言葉より先に涙が込み上げてきそうで、寿人は慌てて咳払いをする。

扉が開いたそばから自分だけが号泣しているなんて、華に一生からかわられそうだから。

「…あとで、たくさん話そ」

そのとき、「花のワルツ」が、生演奏らしい重厚感のある響きで聞こえてきた。

結海と彼女の父親が、まだ時間はあるのにあわてて腕を組む。

その様子に、寿人はほっこりした気持ちになり、にっこりと笑った。


「では、ご新郎様はお先にこちらへ」

重厚感のある扉の前に、一人で立つ。

心躍るようなメロディに合わせて、両親、華、サブちゃん…。これまでの人生を彩ってくれた、大切な人たちの顔が順番に浮かぶ。

見慣れた顔を思い出すと緊張はほぐれてきて、代わりに照れくささが寿人を包んだ。

これからも、彼らに支えられながら、あきれられたり、うんざりされたりしながら、前に進んでいくのだろう。

新しく大切な人に加わった、結海とその家族にも囲まれながら…。

寿人は思う。

― どうか、幸せになろうな。みんなで。

ゆっくりとドアが開いた。向こうから、さざなみのような拍手が聞こえてくる。

その温かい、幸せな音色に耳を澄ませ、寿人は一歩を踏み出した。

Fin.

▶前回:出会って4ヶ月、お泊まりしたいけど日帰りで遠出に誘う彼。32歳奥手男子の本音とは

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:4月16日 水曜更新予定
番外編:寿人の妹・華の恋

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この記事へのコメント

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No Name
出会ってくれてありがと って結海が逆ナンしたような出会いじゃなかった? 夕方 “お一人様キャンプ” に来てビール飲んで一寝入りしたら寒くて…。物乞いするのに丁度いい男が居たから凍えそうな演技で近付いた。 だいたい、キャンプに売れ残りパンとラーメンしか持ってきてなかったのは計画的犯行としか。 正直、今日の話丸ごと無くても良かったと思う。まぁ先週で多くの読者が読むの止めちゃっただろうけど、私は怖いもの見たさで読んでしまった…
2025/04/09 05:3127
No Name
良かった良かった!  勿論、内容ではなく fin が目に入って。しかし番外編あるんかい😆
2025/04/09 05:1426Comment Icon3
No Name
まさかパン屋のSNS、フォロワー増やす目的でやってる? どこまでアホなんだこの女。
実家の手伝いに追われて体が悲鳴をあげていたって、自分が息抜きに手伝いたいって言ったくせに。 どうでもいいけど、クソだっさいウエディングドレス選んだんだろうな〜
2025/04/09 05:2923Comment Icon2
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運命なんて、今さら

気づけば32歳。

仕事もそれなりに順調で、周りから見れば「いい年頃」の大人。

でも、その「順調」の裏にある虚しさがある。

かつての自分は、もっとまっすぐだった。好きな人には全力で向き合い、泣いたり笑ったりするのが当たり前だった。

けれど、いつのまにか傷つくのが怖くなり、「無難」で「賢い」選択をするようになった。

「恋愛なんて、もういいよ。どうせうまくいかないし、面倒だし」

そう心の中で繰り返しながら、恋人いない歴は7年に伸びた。

ただ、そんなある日、彼女と出会った。

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