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運命なんて、今さら Vol.16

最近会う頻度が低い彼氏。「仕事が忙しい」と返された24歳女は、男を問い詰めたら…



「今日は来てくれてありがとう。華ちゃんともっと仲良くなりたくって誘ったんだ」

先週華は、表参道から少し離れたところにあるカフェで、結海と2人でお茶をした。店内はとても静かで結海の優しい声がよく響いた。

名物だというフルーツタルトとコーヒーを注文し、他愛もない話をする。

結婚式準備のエピソードについてあれこれ聞いていたら、あっという間にケーキを食べ終えてしまった。

結海がフォークをお皿に置き、華に聞く。

「華ちゃん、最近仕事はどう?」

「楽しいです。飲料メーカーの宣伝部に配属されて、この4月で2年目になりました。チームはみんないい人ばかりだし」

無邪気に言いながら華は、「でも」と眉間にシワをよせ、声をひそめる。

「仕事はいいけど、恋愛が、今微妙なんです」

「そうなの?」

華は、自分の恋愛事情について話し始める。

「今の彼氏とは、大学時代にバイトしてたペットショップで知り合ったんです。もう2年付き合ってるんですけど、最近、会ってもなぜか上の空で。会う回数も減ってきて…。だから一昨日電話で『なんで?』って問い詰めたら、仕事が忙しいからって濁されて」

「ええ…」

「彼はIT企業に勤めてて、確かに忙しそうなんです。でも、ほんとに仕事なのかな?他に誰かいい人ができたのかなって疑ってます。次会ったら、本心を吐かせます」

華は、小さくパンチのジェスチャーをしてみせる。そんな華を見て、結海はしっとりと言った。

「華ちゃんってすごいよ」


「え?なんでですか?」

「私、昔から、人に何かを言うのが苦手で。傷つけたり、揉めたりするくらいなら、我慢するほうが楽だからってやり過ごしてきたの。恋愛も、仕事も、家族との関係も」

結海が一瞬、遠い目をする。

「うまく本音を言えないから、時間も労力も無駄にしてきたの。だから、若いのにしっかり言葉にできる華ちゃんを尊敬する」

― 尊敬、だなんて!

「そんな大層なもんじゃないです。たぶんお兄ちゃんのおかげだし」

「寿人くんの?」

「あの人、何でも受け止めてくれるじゃないですか。何か言ったときに、怒ったり反論したりする前に、一回どしっと受け止めてくれる。そんな人がずっと近くにいたから、自分の気持ちを言葉にするのが得意になったんだと思います」

結海は「なるほどね」と頷いた。

「寿人くんみたいな人が近くにいたら、私も本音を言えるタイプに育ってたのかもな」

それを聞いて、華は思った。

結海はかつて「うまく本音を言えない」タイプだったのかもしれないが、華は、それを感じたことはなかった。寿人といるときの結海は、とてものびのびした性格に見える。

― お兄ちゃんの優しさで、結海さんも変わってきてるんじゃないかな。

「……華?ねえ?」

母親に肩を叩かれ、華は我に返る。目の前で、純白のドレスをまとった結海が微笑んでいる。

「さ、華。親族みんなで写真撮るのよ」

現実に引き戻された華は、その幸せな光景に、改めて目を細めた。

《サブちゃんSIDE》


「横浜らしい、いい式場だな。お!なんかある」

三郎は、足を止めた。

ウェルカムボードの横に、メッセージブースが設定されている。

テーブルには、水色のメッセージカードが並べられていた。カードを貼り付け、ゲストみんなで大きな富士山のアートを作るのだという。

「…なんで富士山?」

横にいる三郎の妻・ミチが首をかしげる。それから数秒で「ああ」と納得の笑顔になった。

「そうか、寿人くんと結海ちゃん、静岡のキャンプ場で出会ったって言ってたもんね」

膨らみが目立ってきたお腹を擦りながら、ミチはカードとペンを手に取った。

「ねえ、三郎も書こう」

「おう、もちろん」

三郎のペンは、すぐに動き出した。寿人に伝えたいメッセージなど、もう決まっているからだ。

この記事へのコメント

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No Name
何なのこれは? 必要あった?
番外編にもなってないような....
これなら全く別の一話完結で他のライターさんが書いた話を読みたかった。
2025/04/16 05:1736Comment Icon1
No Name
キル フェ ボン のフルーツタルトが食べたくなった♡ 感想はそれだけです!
2025/04/16 05:2215Comment Icon2
No Name


『華なんて、今さら』 サブ🥶
2025/04/16 05:1911Comment Icon1
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運命なんて、今さら

気づけば32歳。

仕事もそれなりに順調で、周りから見れば「いい年頃」の大人。

でも、その「順調」の裏にある虚しさがある。

かつての自分は、もっとまっすぐだった。好きな人には全力で向き合い、泣いたり笑ったりするのが当たり前だった。

けれど、いつのまにか傷つくのが怖くなり、「無難」で「賢い」選択をするようになった。

「恋愛なんて、もういいよ。どうせうまくいかないし、面倒だし」

そう心の中で繰り返しながら、恋人いない歴は7年に伸びた。

ただ、そんなある日、彼女と出会った。

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