運命なんて、今さら Vol.12

「友達以上、恋人未満の関係に終止符を打ちたい」32歳奥手男子が提案した渾身のデートプランとは

― ああ、お母さんを悲しませてしまったかな。

結海は申し訳なくて顔を見れない。なのに母親は、結海の顔を覗き込む。

「…結海?残業続きなんて、聞いてないわ。『今の会社は結構ホワイトだし、パン屋の仕事は息抜きになるからやりたい』って、言ってくれてたから…」

母親の小さなため息が、優しい響きで結海に伝わる。

「結海、ごめんね。頼ってしまって」

母親は「来週から、休んで。アルバイトを探すし、誰もいなかったらしばらく土日はお店をお休みする」と言った。

「あなたは昔から気づかい上手で、すぐに背負うの。お母さんそれを誰よりも知ってるのに、なんで気づかなかったんだろう。ダメね、ごめんね」

「お母さん…」

「私もお父さんも、結海の幸せと健康以上に大事なものなんて、なんにも持ってないのよ。覚えておいて」

― …言えた。

人をがっかりさせたくない。マイナスな気持ちを言うのが怖い。そう思って、結海はいつも本音を飲み込んできた。

研哉との関係をずるずる続けてしまったのもそのせいだ。

でも、言いづらいことを口にしなければ、現状はいつまでも変わらない。反対に、言葉にすればちゃんと心地いい「運命」をつくっていける。


ドアが開いて、若い女性客が入ってくる。

「いらっしゃいませ。こんにちは」

接客モードに入りながら考える。

この勢いで、明日は上司に、仕事量をもう少し調整したいと相談しよう。

そして、寿人にも、怖がらずに思いを表現しよう。化粧品を見て動揺するなんてことが、もうないように…。

若い女性客がトレーを持って、レジのほうへ近づいてくる。

「ありがとうございます。お預かりしますね」

結海は柔らかな表情で、トレーを受け取った。



18時過ぎ、パン屋の締め作業を終えた結海は、カバンを肩にかける。

先ほど結海は、父親と、お店の手伝いについて話し合った。レジに立つのをやめる代わりに、SNS運用をまるまる任せてもらうことで、話がまとまった。

「ありがとう。これからも私、色々手伝うからね。まずは、土日に入れる新しいバイトが見つかるように、求人をやってみる」

「結海、感謝してるよ。でも、無理は禁物。きつかったらすぐに父さんに言うんだよ」

父親の気弱な声に、結海は笑顔でうなずいた。

パン屋をあとすると、なんだか不思議な気分になる。

― 来週からここに来ないなんて。でも、言えてよかった。

ふとLINEを開くと、寿人からメッセージが入っていた。


『寿人:4月のどこかの週末で、一緒に日帰りキャンプに行きませんか?』

― キャンプ!

いい方へ、いい方へ。しんどかった毎日が変わっていくのを、結海は感じた。



4月2週目の土曜。

寿人は、車で用賀まで迎えに来てくれた。

運転席から出てきた寿人が、「晴れてよかったですね」と爽やかに笑う。

「キャンプ日和ですね。迎えに来てくれてありがとうございます」

寿人の手を借りながら、トランクに荷物を詰め込む。

目的地は静岡。きっと、今日は特別な日になる。

結海は、抑えられない胸の高鳴りを感じた。


▶前回:初めて彼のマンションを訪れた28歳女。しかし、滞在10分で、突然「帰りたい」と思った理由

▶1話目はこちら:「自然に会話が弾むのがいい」冬のキャンプ場で意外な出会いが…

▶NEXT:4月2日 水曜更新予定
2人でキャンプへ。寿人は、満ち足りた気持ちになり…

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この記事へのコメント

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No Name
週末入れるバイトも探さずずっと娘に頼ってた親もどうなんだと思ってたけれど、母親の話を聞くと結海が「パン屋の仕事は息抜きになるからやりたい」と願い出てたからやらせてただだったんだ。結局一番悪いのは結海だった!!?
2025/03/26 05:1822
No Name
結海の成長日記 みたいになってきた🤦🏼‍♀️
2025/03/26 05:2322
No Name
あまりにも普通な展開で面白くない。キャンプに行って告白して付き合う事になり終了〜でいいと思うけど来週まだ最終話じゃないなんて、残念過ぎ。
2025/03/26 05:2218返信1件
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