2025.03.06
TOUGH COOKIES Vol.3港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)”。
女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。
タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。
▶前回:32歳女が、抱える秘密。高校時代からの親友に言えずにいる「あの夜」のこととは
Customer 1:富崎小春(とみさきこはる・32歳)【親友の恋人を愛した女】
「店長さんは、誰かの結婚式に…出たくないなって思ったことはありますか?」
客である富崎小春にそう聞かれた店長のともみは、ないですね、とだけ短く返した。
ただし正確には、“女友達がゼロなので結婚式なんて招待されたことすらない”というのがともみ・28歳のリアルだが、小春は、普通はそうですよね、と自分を責める口調で続けた。
「私は今日…逃げたいと思ってしまったんです。大好きな先輩の結婚式なのに…」
数時間前に小春を親友と呼んでくれる結衣からかかってきた電話。『結婚式の日取りを決めたいんだけど小春には親友としてスピーチをお願いしたいの。だから小春の都合も聞きたくて』と、式の候補日として数日を提示されたのだ。
結衣が長年の恋人である良太のプロポーズにイエスと言ってからまだ2週間ほどしかたっていないのに、もう結婚式の日取りの話とは。良太が早く入籍したい、結婚式の日取りも決めたいってはしゃいじゃって困るの、と言いつつ結衣の声はうれしそうだった。
なんとか平静を装い「スケジュールを確認してまた連絡するね」と電話を切った瞬間、小春は、もうこれ以上はダメだと震えた。
結衣に対する裏切り、後悔、罪悪感、そしてきっと未練。それらにどう決着をつければ…と感情がぐちゃぐちゃになったとき、この店のことを思い出したのだ。
「ショップカードに…一歩踏み出したいとき、あなたの決断をお手伝いしますって…」
書いてあったのは本当ですか?…と小春が続けようとしたとき、あっ!と声がした。声の主は、小春が座るカウンター席の逆端でグラスを磨いていた、フワフワとしたパーマヘアを一つにまとめたもう一人の店員だった。
店長と小春の視線を受けた彼女は、てへっ、という感じの笑顔で続けた。
「お話始まっちゃったところで申し訳ないんですけど、店長、お客様に契約書をお見せしないと。まだですよね。取ってきます?」
― 契約書…?
頭にハテナが浮かんだ小春をよそに、店長はハッとした顔になり、ごめんルビー、お願いしてもいい?と言った。
この女性はルビーさんという名前なのか…などと小春が思っている間に、その“ルビーさん”は店の奥の部屋に消え、何かを手にして戻ってきた。
手にしていたのはクリアファイルで、それを受け取った店長が、その中から数枚の紙を取り出した。
「こちらを見ていただけますか」
カウンターの上を滑らせるように、小春に差し出されたそれは。
「…秘密…保持契約書…?」
驚いた小春のその呟きに、はい、と答えて店長は続けた。
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