「実は彼と…」32歳女が、抱える秘密。高校時代からの親友に言えずにいる“あの夜”のこと

港区・西麻布で密かにウワサになっているBARがある。
その名も“TOUGH COOKIES（タフクッキーズ）”。

女性客しか入れず、看板もない、アクセス方法も明かされていないナゾ多き店だが、その店にたどり着くことができた女性は、“人生を変えることができる”のだという。

タフクッキーとは、“噛めない程かたいクッキー”から、タフな女性という意味がある。


▶前回：「割り切った関係でいい」そう思っていたが、別れ際に寂しくなる27歳女の憂鬱

◆

― 最初のお客様は、19時半、だよね。

港区西麻布にある女性専用のBAR“TOUGH COOKIES”の店長である佐藤ともみは、店内の掃除を終えると、本日最初の予約客の名前と来店時間を再度、ソワソワと確認した。

― 私、緊張してるっぽいな。

元アイドルという経験のおかげで緊張というものとは無縁の人生を送ってきたはずなのに…と、深呼吸をした瞬間、携帯がなりエプロンのポケットから取り出した。

『もうすぐオープンだね　頑張ってね』

大輝からのLINEだった。こういうタイミングを外さない彼が憎らしいと思うのに、うれしくもあることが悔しくてともみが大きなため息をついた瞬間、次のメッセージがきた。

『近いうちに開店祝い＆誕生日のお祝いをさせてね』

そう、ともみは5日前に28歳になった。そして今日は2月1日。この店の記念すべきオープンの日なのだ。

最初の客の来店時間まであと1時間と少し。コーヒーを飲む余裕があるなと豆を挽き始めた時、お疲れさまでぇ～す、とハスキーな声と厚底ヒールの重たい音が入ってきた。

「お疲れ、ルビー。今日もテンション高いね」

コーヒー飲む？と聞いたともみに、のむのむぅ～と語尾を伸ばした彼女の名前はルビー。

母が日本人、父がアメリカ人の彼女は、スパイラルパーマとでもいうのか細かいパーマの黒髪ロングで肌は褐色。生涯ギャル宣言をしている自称22歳。

ポールダンサーとしても活躍するルビーは、大きなフープのピアスと赤いリップがトレードマークで、真冬だというのに超ミニスカートで出勤してきた、この店でともみと働くことになったスタッフだ。

「…ともみさん、なにそれ？せっかくの可愛い顔、なんで隠しちゃうのぉ～？」

コーヒーにミルクを入れて手渡したともみの顔を、心底残念そうに見つめながらルビーがそう言ったのは、ともみがかけている太めの黒ぶちメガネのことだろう。

「この店にくるお客様にとって、同性の美しい店員はいらないでしょ。少しでも隠そうかと思って」

「うわ、逆にイヤミでヤな感じ。でも、ともみさんのそういうとこ好きぃ～♡」

私もルビーのこと好きだよ、と素直に言える相手と出会ったのは、どれくらいぶりかとともみは思った。

◆

「この子はルビー。アンタの足りない部分を補ってくれると思うし、相性はいいと思うから一緒に働いてみて」

と、この店のオーナーである西麻布の女帝…光江に紹介されたのが2週間程前。最初はルビーのノリの軽さに戸惑ったものの、オープンまでの店の準備のあれこれを共に処理していくなかで、あれ？この子はとても気が利く子なのだとともみは気がついた。

光江の言う“ともみの足りないところ”とは？ということはナゾのままだが、光江に聞いても教えてもらえないことは分かっている。光江はいつも全てを教えてはくれない。だから答えを知りたければ自分で探すしかない。

そもそもこのBARをなぜ作るのか、と聞いた時もそうだった。光江はこう言ったのだ。

「この店に儲けは必要ないの。客がゼロだって毎月の家賃とアンタたちの給料が払えるくらいの金額は入ってくるシステムになっているから」