2025.03.10
1LDKの彼方 Vol.12明里と腹を割って話せばいいのかもしれないけれど、あんなことがあった以上、明里との間で歌織ちゃんの名前を出すことにはためらってしまう。
なにより、できればプロポーズはサプライズで驚かせたい。そう思うと明里に具体的な相談もできず、ときどき女々しく瑛介に愚痴るだけの日々が続いているのだった。
悶々としているうちに、走っていたタクシーがゆっくりと停車した。
「あ、この店ですね!」
「えっ、まじか」
チコの声でハッと現実に引き戻された俺は、再び驚きの声をあげた。到着した打ち上げの店が、俺と明里と部屋の目と鼻の先のイタリアン『ALMA』だったからだ。
― これは、もしかしたら割と早く帰れるかもだな。明里に連絡入れておこう。
そう思い、今日は自宅で仕事だと言っていた明里に『22時くらいには帰れるかも』とLINEを送る。
「チコ見て。これ、俺と彼女の家」
そんな話をチコとしながらスマホをしまい、タクシーを降りて店に向かう。
歌織ちゃんからのLINEには、見てみぬふりを続けた。
打ち上げのメンバーは、俺とチコを入れて5人だ。
4月の配置換えでチームが変わったやつもいるけれど、元は同じクリエイティブチームの若手同士で、なんやかんやと理由をつけては定期的に飲みに行く仲。
気心知れた仲間で飲むワインは美味しくてつい進んでしまい、気がつけばすっかりみんな出来上がってしまっている。
時刻はすでに22時を過ぎているものの、この盛り上がりではまだまだ終わりそうにない。すでにテーブルでは、二次会の店決めが始まっていた。
― どうしようかな、22時には帰るって明里に言っちゃったんだけどな…。
ほろ酔いの頭でそう考えていると、ふと誰かが言った。
「ねえ、亮太郎さんの家行きましょうよ。すぐそこなんですよね?」
「…え?」
戸惑う俺を置いて、話はどんどん進んでいく。
「いいねぇ!愛しの彼女、見たい見たい!」
「新しい4Kプロジェクターも見たい!」
「いやいやいや、さすがに急すぎるって」
慌ててみんなをなだめるも、勝手に盛り上がってしまっている皆の耳には全く声が届いていない状態だ。
困り果てて頭を抱えた俺だったが、その瞬間ふと、瑛介が言っていた言葉が頭をよぎった。
― 明里ちゃん、お前みたいなのが彼氏でかわいそうだな…。
瑛介の言葉の意味は、歌織ちゃんと密かに連絡をとっていることももちろんある。
が、それだけではなく、「俺の仕事で明里を振り回し過ぎだ」という説教も多分に含まれているものだ。
確かに、仕事の都合で明里との約束を反故にしたことは、付き合う前から数えきれない。だからこそ同棲を始めたのだけれど、一緒に暮らし始めてからも振り回してしまうこと自体は続いているし、歌織ちゃんとのことも突き詰めれば仕事を発端としたものだった。
それに瑛介に言わせれば、友達や家族に紹介してもらえたことがない、というのも、女性の側からすれば不安になってしまうものらしい。
けれど俺には、元カノの浮気のこともあり、友達らしい友達はいない。家族に結婚も決まっていない彼女を紹介する風習もない。
― 強いて言えば、こいつらが仕事仲間兼、友達…でもあるか。もしかして明里に紹介するチャンスでもあるのか?
少し、ほんの少しだけそう考えた俺は、明里に電話で確認を取るために渋々席を立つ。
もちろん明里が「無理」と言ったら、誰も連れて行くことなく、二次会にも参加せずに1人で早く帰宅するつもりだった。
▶前回:結婚願望がない彼氏と迎えた、30歳の誕生日。女がショックを受けた“ある理由”
▶1話目はこちら:恵比寿で彼と同棲を始めた29歳女。結婚へのカウントダウンと意気込んでいたら
▶Next:3月17日 月曜更新予定
明里を友人に紹介することで、結婚への足掛かりにしようとした亮太郎。しかし…
なら早くそう言って彼女を安心させてあげなよ、ねぇ。歌織なんてマジどうでもいいし、兄嫁がしょっちゅう実家に顔出すとか外野の事で言い訳作ってないでまずはきちんと明里と向き合わないと。
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