運命なんて、今さら Vol.10

「今夜は帰りたくない」と2回目のデートの帰り、28歳女に言われた男。どう対応するのが正解?

結海は、目の前に座った寿人に気づくと、ゆっくり顔を上げた。

「ああ、すみません。ごちそうさまでした」

「いえ。店員さんが、デザートゆっくり味わってねって。優しいですね」

結海は、口角だけを上げて、何も言わなかった。代わりに、寿人をじっと見つめる。

「あ、あの。私」

「私は、寿人さんのこと、本気です」

結海の声が、少し震えている。

「今日…帰りたくないくらいです。できたら、ずっと一緒にいたい。寿人さんと」

寿人は、コーヒーを持とうとしていた手を止める。

「え…」

「…ダメ、ですか?」


結海の、潤んだ、不安そうな目。

― …こういうときは…どうすんだ?じ、自分の家に、誘うのか?

今夜はこの店を出たら、結海をタクシーに乗せて見送るつもりだった。告白をする心の準備も、家に呼ぶ覚悟もできていなかった。

― いや、もちろん、僕も一緒にいたいけど…。

指先が情けないくらいに震えて、慌てて手をテーブルの下に隠す。

今夜、華が家にいたらいいのに、と寿人は一瞬思った。

なのに華は帰ってこないし、明日は日曜で予定もない。断る理由が見つからない。

そこまで考えて、寿人はようやく、自分が相当怯えているのだと気づく。

女性と一晩を過ごすなんて、久しぶりすぎてどうしたらいいのかわからない。だから、断りたいのだ。

「なんて…ごめんなさい。私、ちょっと、言ってみただけです」

結海は、気まずそうに目を泳がせ「コーヒー美味しい」と笑った。

「結海さん。…僕も、本気です。結海さんは、僕の特別な人です」

「本当?」

「はい。本当です」

このままスマートに家に誘って、そこで改めて告白できたらいい。そう思うが、勇気が出ない。

寿人は、ふがいなさで泣きそうになりながら、作り笑顔でうなずくことしかできなかった。


店を出ると、23時半だった。

「今夜は、ちょっと春っぽい気温ですね」

無難なことしか言えない寿人は、結海とともにトボトボと歩き、目黒通り沿いに出る。

「寿人さん。今日は、ありがとうございました。ごちそうさまでした」

結海は「そうだ」と言いながら、自分のカバンをのぞきこみ、見覚えのある赤いビニール袋をそっと取り出す。

「うちのクロワッサンと、きのこのチーズロールと、ビーフシチューパイ。あと、私が先月考えた、オレンジピールのデニッシュが入ってます」

「ええ、いいんですか」

「全部、今日の夕方に焼けたパンです」

「そうか、今日も働いてたんですね。土曜なのにお疲れ様です。明日も?」

「はい。11時から」

結海は、忙しいし疲れているはずなのに、こうして一緒に過ごしてくれたのだ。

寿人の中で、彼女を愛おしく思う気持ちがふくらむ。

差し出された袋を受け取りながら、寿人はついに覚悟を決めた。

「ありがとうございます。…あの」

「ん?」

「これ、一緒に食べませんか。その、僕のうちで」

お互いにお腹がいっぱいなのはわかっている。でも、寿人は他にいい誘い方を見つけられなかった。

結海の目がゆっくり2回、まばたきをする。

「はい」と笑顔でうなずいてくれた結海は、うれしそうで、ちょっぴり泣きそうな表情をしていた。

《結海SIDE》


心臓が、暴れている。息が浅くなる。

結海は体の力を抜くために、寿人にバレないように両肩を持ち上げ、ストンと落とした。

朝から実家のパン屋のレジに立っていたのと、イタリアンを食べながらずっと緊張していたせいで、肩こりがひどいのだ。

「どうぞ、結海さん」

鍵が回り、ドアが開かれる音がした。

この記事へのコメント

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No Name
ありきたりな展開過ぎて読んでるこちらが恥ずかしくなってくるレベルですね。
2025/03/12 05:2234
No Name
誰もが先週コメントで予想した通りの展開。しょうもな。
9-10話をもっと簡潔にして一話分に納めた方が良かったと思う。
2025/03/12 05:1823返信1件
No Name
結海っておばさん通り越しておばあちゃんみたい。
いっつも肩凝りが酷いのだって言ってる🤣
2025/03/12 05:2013返信1件
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