運命なんて、今さら Vol.7

「元カレと縁を切れない…」家を訪ねてくる彼を拒否できない28歳女は、ついに…

リビングに、コーヒーの香りが漂っている。

いつの間に淹れたのだろう、テーブルの上の2つのマグカップから白い湯気が立っていた。

「なあ、俺、決めた」

「なにを?」

一緒にテーブルにつきたくない結海は、壁にもたれたまま、研哉の次の言葉を待つ。

「俺、結海を諦めない。だって、結海の前だけなんだよ。俺が、何者でもない俺に戻れるの」

「……」


「結海にはわからないと思うけど、会社のトップにいる俺は、いつも気を張って生きてるんだ。みんなに失望されちゃいけない、いい社長でいなくちゃ、期待に応えなくちゃって」

研哉は、話の合間にズズズとコーヒーをすすった。

「でもさ、さすがの俺も、たまに息がつまるわけ。そんなとき、結海に無性に会いたくなる。だって結海は、大学のとき、何ひとつ上手くいってなかった俺を好きになってくれた。だからか、結海といると俺、自然と素顔に戻れるんだ」

そして研哉は、赤子をあやすような声を出す。

「結海、いつもありがとうな。結海の前でだけ、深く息を吸えるよ。感謝してる」

結海は、研哉の顔は見ない。

感謝されたり、頼られたりすると無下にできない。そんな弱い性格につけ込まれていると、わかっているから。

しかし研哉は、ぐいぐいと近寄ってくる。

マチコばあちゃんもさ、結海のこと、とっても素敵なお嬢さんだっていつも褒めてるよ。俺と別れたら、ばあちゃん、すんごいがっかりすると思うな」


「だから考え直して」と言いながら研哉は、結海を抱きしめようとする。

「…ちょっと」

結海は、壁にもたれていたことを後悔する。これでは、うまく逃げられない。

研哉の顔が近づいてきて、首筋に、温かい息がかかる。

その感触にぞわりとしたとき、結海の腕は、結海自身でも驚くくらいの力を宿し、研哉を突き飛ばした。

「い…ってえ」

ソファの上に投げ出されたかたちになった研哉は、軽蔑のこもった目で結海を睨む。

「…なんかお前、変わったよ。いつもニコニコして、なんでもしてくれて…あんなに俺に従順だったはずなのに。新しい男ができて、俺を捨てるんだろ?ふざけんなって」


結海は、表情のない目で研哉を見つめ返した。

ここで否定をしたり、悔しさや怒りをぶつけるよりも、早く研哉のいない人生へと駒を進めたいと思ったのだ。

「…研哉が今言ったこと、私にとっては、ぜんぶ逆なの」

「なにが?」

「私は、研哉の前だと、肩に力が入ってしまって、息が苦しい。研哉の前だと、自分らしくいられない」

「……」

「つまり、全然一緒にいたくない。もう、愛してない」

研哉は黙ったまま、ものすごく傷ついた顔でうつむいた。

「だからお願い、別れてください」

「なんだよ、それ…」

結海の声は落ち着いていて、言葉は、酷なほどの冷たさをまとっていた。暖房の小さな動作音が、2人を包む。

しばらして研哉は「もういいよ、わかった」と力ない声で言い、トボトボとリビングを出ていった。

数分後、玄関のドアが開いて閉まる音がして見てみると、バスローブが、廊下に乱雑に脱ぎ捨てられていた。

この記事へのコメント

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No Name
展開がスロー過ぎて疲れる。 研哉の酷さからそう簡単には引き下がらないだろうと思わせておいて「愛してない」と冷たく言ったら即撤収してくれた? やっぱり言いなりになっていた結海も悪かったと改めて思ったけど、研哉はまだ諦めてないよね....
2025/02/19 05:1821
No Name
この調子だと研哉とのいざこざをダラダラと最終話まで引っ張るのか.... 無料相談はマウントと嫌がらせだろうと簡単に想像できる。
2025/02/19 06:1021
No Name
Netflixの韓国ドラマでよくあるような、元カノの新しく好きになった男に近付いて邪魔をする的な展開? そもそも結海のキャラが無理なのでもうどうでもいい。
2025/02/19 05:2416
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