「そうです。うちのオーナーが女性しか入れない店を作るらしくて。その店長をともみが任されることになったんです」
「それって…ホストクラブとか、ボーイズバー的な?」
「イケメンが女性を癒やします的なコンセプトなら、なんかイヤだな」と結衣が眉をひそめると、店長は、「違います」と即否定し、レズビアンバーでもないという説明も足した。
「あくまでもBARですよ。スタッフも全員女性にするみたいです。女性1人でも立ち寄りやすい雰囲気にしたいみたいで」
「…TOUGH COOKIES(タフクッキーズ)…これが店名ですか?」
英語ができる小春の問いに店長が頷いた。
「小春、どういう意味かわかるの?」
と、結衣が聞いた。
「確か…タフなクッキー…つまり“噛めない程かたいクッキー”って意味からきてたかと思うんですけど、“Tough Guy(タフガイ)”みたいな感じですかね。
女性に使われることが多いとは思うんですけど、簡単に言うとタフな人。折れない、しぶとい、強くてたくましい、みたいな。あ、でも、しつこくてメンドクサイ人みたいな意味で使われることもあるかも」
小春の説明を聞きながら結衣は、その店の店長がともみちゃんだとすると、ともみちゃんのイメージとはかけ離れた店名だな…とぼんやりと思った。
結衣が知るともみという女性は、色白、艶々の黒髪。小柄で華奢、小鹿のような黒目がちの瞳で見つめられると思わず守ってあげたくなる…というような線の細い、儚げな美しさを持つ女性だからだ。そのうえ。
― しっかり胸もあるんだから…ずるいっ!
Sneetの制服である白シャツ黒ベスト姿では気づかなかったのだが、一度だけ、出勤してきたばかりでまだ私服の…ピチピチタイトなワンピース姿だったともみと挨拶をかわしたことがあり、その魅惑のボディラインにドギマギしてしまったのだ。
― 絶対Eカップはあった…うらやましいっ!
神様は不公平だ…と思わず自分の胸を見下ろしてしまった結衣だったが、小春の、結衣さん?という声にハッと我に返り、いかんいかんと、話を“女性客オンリーのBAR”に戻した。
「女性客だけのBARって確かにこの街では聞いたことないし、コンセプトとしては面白いとは思うんですけど。なんか閉鎖的な空気というか、今の時代感としては差別だって言われちゃいそうじゃないですか?
女性専用のBARにするメリットって何なんだろう?わざわざ女性客だけって制限しなくても、女子1人でも入りやすいBARなんて今どきたくさんありますよね?」
「…結衣先輩みたいに強い女性ばっかりじゃないですから。1人でBARに入るなんて、私だったら怖いし緊張します。だから女性専用のBARだよって言われた方が、行きやすいっていうか、ハードルは下がるかも」
小春の反論に「え~そうかなぁ」と不満そうに口をとがらせた結衣をちらりと見た店長が、またほんの少しだけ口角を上げてから言った。
「結衣さんは、うちのオーナーのことってご存じでしたっけ?」
「ええ、ものすごくゴージャスなマダムですよね?」
その人を初めて見たのは、この店に通い始めて2、3年が経った頃だったと思うと、結衣は店長に説明した。
縦にも横にも大きい、ワインレッドのロングドレスを着たド派手なお姉さまが登場すると場の空気が一瞬で変わった。そしてその女性こそがこの店のオーナーであるという情報がざわめきとともに耳に入ってきたのだ。
「それ以上のことはご存じないですか?」
店長の質問に、それ以上って?と結衣が首を傾げる。すると店長が、いや、うちのオーナーは少し…というかだいぶ変わった人なので…と言葉を選ぶように続けた。
「その新しい店では、疲れた女性たちを楽にするっていうのも目的の1つみたいなんです。だから女性客オンリーにしたみたいで」
「楽にする?BARで女性を?どうやって?」
「僕も詳しくは分からないんですけど…そのカードのコードを読み込んでみてください」
店長の指示に素直に反応し、ショップカードの裏面にあったQRコードを読み込んだのは小春だった。小春の携帯画面が、店紹介のWEBページに飛ぶ。
そこにはこう書かれていた。
この記事へのコメント
しかもゴットマザー光江さん出す新しいバーでのお話になるのかな? 次週が楽しみ。
読み応えのある連載が始まって嬉しいな〜、昨日の無駄に改行と読点が多い文章とは大違いw