2025.02.03
1LDKの彼方 Vol.7ベッドの上で鬱々とそんなことを考えながら、何気なくスマホをいじる。
― なんでだろう。もしかしたら同棲してないほうが、こういう深刻な話ってしやすいのかもしれない…。
何の気なしに亮太郎とのLINEを開くと、そこにはまだ、2ヶ月前の同棲以前のメッセージのやりとりも残っている。
「おはよう」「おやすみ」といった日常の挨拶。
その日あったことや、相手に見せたい面白い光景の写真。
これから先ふたりで行きたい場所や、レストランのURL。
それになにより、日課になっていた通話の跡や、他愛もない雑談や冗談などが、ズラリと並んでいた。
対して同棲が始まってからのやりとりは、まるで業務連絡のような言葉ばかりだ。
『今から帰る』
『今日は遅くなります』
『ごはんいらない』
カラフルだった世界が、一転してモノクロになったみたいに味気なくなっている。
一緒に住んでいるのだから、LINEでするような恋人の話は、直接の会話でするようになったのだろう。
そう思いたいところだけれど実際には、単純に置き換わったような感覚ではない。
同棲して一緒に住んでいるからこそ、軽々しく話題にできないことが増えたのだ。
根深い悩み。相手への不満。
そういったトピックスを軽々しく話題に出したとして、たとえ気まずくなっても毎日の生活は続いていく。
気分を害したからといって、簡単に同棲を中断することなんてできない。
物理的に離れられない環境だからこそ、本音でぶつかることができない。
そんなジレンマに陥るなんて、一緒に暮らし始める前は考えてもみなかった。
そう考えると、亮太郎が旅行に出ているこの週末は、久しぶりにひとりで冷静になれる貴重な機会だった。
― もしかしたら、亮太郎もそうなのかな。私に言いたくても言えないこと、あるのかな…。
そういえば、亮太郎の過去のつらい恋愛について聞いたのも、同棲する前のことだった。
もしも私が、知らずのうちに亮太郎の地雷を踏んでしまっていたら…。
そう考えると、今私がやっているような臭いものに蓋をするようなまねはせず、真っ直ぐに向き合って全てを話し合いたいと思った。
― やっぱり…変な空気になったとしても、ちゃんと話そう。今すでに気まずいんだもん。
はっきりそう決意した私は、指先で弄っていたスマホを握り直し、亮太郎とのLINE画面に向き合った。
けれど、『帰ったら、話そう…』とそこまで文字を打ち込んだ、その時。
反対に亮太郎からLINEメッセージが届いた。
写真付きの、短いメッセージだった。
『旅行楽しいよ!でも、早く明里に会いたいな』
一緒に送られてきた写真には、旅館のテーブルでケーキを囲むご家族と、大きく自撮りに映り込んだ亮太郎の笑顔が映っている。
「…ふふっ」
久しぶりに送られてきた、業務連絡じゃないメッセージ。
それだけで、こんなにも心が温かくなる。
私は途中まで書いていたメッセージをすっかり消すと、もっと素直な気持ちを指先に込めて送信した。
『私も早く会いたい。亮太郎がいないと寂しいよ』
自分のメッセージを送ってしまってからも、私はうっとりと亮太郎からのLINEに見入った。
ソラにも似たこの笑顔を見ていると、思わずジンとしてしまう。
亮太郎には、私の気持ちをちゃんと伝えたい。だけど同時に、この無邪気な笑顔を困らせるようなことをしたくないのも、偽りのない想いだ。
嬉しいこと。悲しいこと。つらいこと。いろんな気持ちを亮太郎と分かち合っていきたいけれど、年下で純粋な亮太郎に、私の歪んだ感覚を背負わせるのはやっぱり違う気もする。
― 亮太郎とこのまま結婚まで行けたら、さすがに歌織に取られるようなこともないし…。
どうやら気まずい空気が霧散した今、私はついさっきまでとは打って変わって、歌織についての黒い感情を吐き出す気をすっかり無くしていた。
旅行中の亮太郎と、長々やりとりする気はない。
すっかり気分も晴れたことだし、せっかくの1人の日曜をどうすごそうか…と思った時だった。ベッドに放り出していたスマホが、再びLINEの通知で震えた。
「もう、いいのに〜」
まんざらでもない気持ちでもう一度スマホを手に取る。けれど、今度のLINEは亮太郎からのものではなかった。
メッセージの冒頭には、黒い隅付きカッコでタイトルが強調されていた。
【同窓会のお知らせ】
私はそのメッセージを見ながら、亮太郎のことを考える。亮太郎の“トラウマ”のことを。
せっかく仲直りしたばっかりなのに。これ…断ったほうが、いいのかな。
▶前回:「え、嘘だろ…?」同棲前に彼女の親に挨拶に行ったら、実家が金持ち過ぎて…
▶1話目はこちら:恵比寿で彼と同棲を始めた29歳女。結婚へのカウントダウンと意気込んでいたら
▶Next:2月10日 月曜更新予定
自分のトラウマを亮太郎に伝えられない明里。一方の亮太郎は
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