「これって脈なし？」初デートの後、彼女から1週間連絡がない。いい雰囲気だったのにナゼ…

たしかに、ナポリタンはのびてベッタリしていた。でも研哉が、ワッフルを本当に美味しそうに食べてくれたから、結海は楽しい気分になった。

あっという間に食べ切ったあと、研哉は笑った。

「うますぎて一気に食っちゃった。結海ちゃん、ありがとう」

それから、大きなのびをして言った。

「なんか俺、元気出てきた。就活やめて、明日から起業準備するわ」

「へ？起業？」

「うん。広告系の会社、自分で起業する。そのほうが手っ取り早く、やりたい仕事できそうだし」

何が研哉の背中を押したのか、結海にはわからなかった。けれど彼は、突然元気になったのだった。

そして翌日から、本当に会社設立の準備を開始。翌月には、「出資者を探す」と言ってさまざまな会社を突撃訪問しはじめた。

そして、冬が来て、年が明けて、卒業ムードが広がって。目まぐるしい数ヶ月の間に2人は、四ツ谷駅周辺のレストランで頻繁に会うようになった。

出資者はなかなか見つからなかったが、その進捗を教えてくれる研哉の目には、かつての光が戻っていた。

そうして迎えた、卒業式の日。

「俺は卒業しても、結海ちゃんといたい。だから付き合ってほしい。絶対に、仕事を軌道に乗せて、幸せにするから」

研哉は、そう告白をしてくれた。

そして宣言通り、半年後には、名のしれた化粧品メーカーからの出資を獲得して、起業。付き合って3年目には、小さかったその広告代理店を、150人規模の企業に成長させた。

彼は、その持ち前の行動力と経営センスで、実家をも救ってくれたわけだ。

「…懐かしいなあ。でも、これももう要らないね」

いつかの誕生日に結海からプレゼントした、ラルフ・ローレンの紺色のバスローブ。

研哉がよく着ていたそれを段ボールに押し込みながら、結海の頭には、両親の顔が浮かぶ。

― 別れたって言ったら、お父さんもお母さんも、がっかりするだろうな。

結海の両親は、今でも研哉への感謝をよく口にしている。半ば「崇拝」と言ってもいいレベルに。

― きっと「あんな素晴らしい人をなんで」とか言って、責められる。でも…。

30歳を前にして結海は、「研哉と生きていく人生」をリアルに想像するようになり、息がつまる感覚を覚えた。

だから、「別れよう」と伝えたのだ。

できることなら、気を使うことなく自然と笑顔になってしまう――そんな相手とともに、人生を作っていきたい。

― たとえば、寿人さんみたいな人と…。

何げないソロキャンプでの出会いが、自分の中でどんどん膨らんでいるのを感じ、結海はうつむく。

― 一緒にお茶した8日前から、連絡すらとってないのに。

「期待しちゃ、ダメよね…」

結海は、段ボールを閉めて、ガムテープでしっかりと封をする。

― 寿人さんと進展するためにも、まずは、自分の身辺整理をしないと。

結海は、スマホを取り出し、研哉にメッセージを送った。

『結海：研哉の家に荷物を送ります。もう、うちには来ないで』

《寿人SIDE》

「ふーん、一緒にお茶したんだ。で？そのまま今日まで…1週間アクションなし？」

大きな目で寿人をうつし、妹の華は「信じられない」という表情を見せる。

それから彼女は、中トロの握りをそっと口に入れた。


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妹の華に、恋の相談。寿人はある「アクション」をとろうと心に誓うが…

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