2024.11.09
1874年、他に先駆けて辛口シャンパーニュの“ブリュット”を世に送り出したポメリー。それは美食との相性を意識してのことだった。
それから150年。『京都吉兆』の徳岡邦夫総料理長と『TOUMIN』の井口和哉シェフによる、日仏料理とポメリーのシャンパーニュとのペアリングを探るワークショップが、東京で開催された。
ラグジュアリーな美酒と美食の世界を、東カレがレポートする!
シャンパーニュを語る上で知っておきたい、マダム・ポメリーという人物
フランスのシャンパーニュ地方の中心にあるランスという街。そのサン・ニケーズの丘にエリザベス朝様式の建物を構え、地下にはガロ・ローマ時代の石切場を利用した総延長18キロにもおよぶ熟成庫をもつのが、今回の主役、シャンパーニュの名門メゾン「ポメリー」だ。
シャンパーニュの世界で未亡人の活躍は枚挙に暇ないが、マダム・ポメリーもそのひとり。
19世紀後半、メゾンを発展させたマダム・ポメリーは慈善事業に取り組み、貧しい家庭の子供でも無償で教育が受けられる学校を設立したという。
また文化芸術の保護にも熱心で、ミレーの傑作『落穂拾い』を当時としては破格の30万フランで買い取り、すぐさまパリのルーヴル博物館に寄贈。フランスの至宝が外国に流出するのを防ぐためだった。
では、メゾンを成功に導いたマダムのシャンパーニュビジネスにおける最大の功績とは何か?それは1874年に他のメゾンに先駆け、辛口シャンパーニュの“ブリュット”を発売したことだ。
ポメリーが打ち出した、英国人が好む味わいとは?
今では信じられない話だが、その昔、シャンパーニュは甘口で、1リットルあたりの糖分は200グラムが当たり前。
というのも19世紀前半までシャンパーニュの大のお得意先は帝政ロシアで、ロシア貴族はシャンパーニュをデザートタイムに楽しむのを好んでいたから。
一方、七つの海を制覇する大英帝国ではシャンパーニュの飲み方が異なった。
ワイン愛飲家の多い彼の国では、シャンパーニュもワインと同様、食中に料理と合わせて飲む習慣が生まれつつあった。そうなると過度な甘みは邪魔になる。そこで英国人の嗜好に合わせ、マダム・ポメリーが開発したのが“ブリュット”というわけだ。
まさに、美食向けのシャンパーニュの嚆矢といっても過言ではないだろう。
豪華なイベントには、星付きシェフが大集合!
昨年から、『京都吉兆』とシャンパーニュと日本料理の新しい価値観を見出すためのコラボレーションを展開するポメリー。
今回は著名店のシェフやソムリエを招き、『京都吉兆』徳岡邦夫総料理長と、発酵をテーマとするモダンフレンチ『TOUMIN』の井口和哉シェフのふたりが、ポメリーの各シャンパーニュに合わせて料理を創作するワークショップを開催した。
招かれたのはコンクール優勝歴を誇る著名ソムリエのほか、『かんだ』の神田裕之料理長や『神楽坂 石かわ』の石川秀樹料理長、『レストラン ナベノ-イズム』の渡辺雄一郎シェフや東京會舘『レストランプルニエ』の松本浩之シェフなど錚々たる顔ぶれ!
さて、最初のシャンパーニュは「ポメリー アパナージュ ブリュット 1874」。これに合わせて徳岡総料理長が考案した料理は「雲丹 夏野菜 玉ねぎジュレ」、井口シェフの一品が「甘エビとパプリカのエッグタルト 発酵トマト」。
「アパナージュ ブリュット 1874」は、ポメリーが初の辛口シャンパーニュ“ブリュット”をリリースした1874年から、今年で150周年を迎えることを記念して誕生した一本。
2018年をベースに、2015年と2012年のリザーヴワインをブレンドし、瓶内熟成期間は4年以上。仕上げの糖分添加をひと桁台の1リットルあたり8グラムと低めに抑えた、まさにブリュット中のブリュットだ。
“京都吉兆”が提案するのは、贅沢にウニを使った逸品!
徳岡総料理長の皿は、ミョウバンの匂いをとるため昆布出汁に漬けた生ウニに、細かく刻んだズイキ、レンコン、長イモ、イブリガッコなどの夏野菜を添え、カツオ出汁に玉ねぎと生姜を加えた土佐酢のジュレで絡めたもの。
日本料理とシャンパーニュのペアリングについて、「文化が違うので難しいと思っていました。だから、シャンパーニュと合わせる際にはいつもぶつからないこと、邪魔にならないことを念頭に料理を仕上げています」と、やや消極的にも聞こえるアプローチながら、いやいやどうして。
海を連想させる雲丹のヨード香とシャンパーニュのミネラル感がみごとなハーモニーを奏でている。
意見を求められた銀座『レカン』の近藤佑哉ソムリエも、「食材の引き立て方が素晴らしく、シャンパーニュに寄り添うように仕上げられた料理」と大絶賛。
軽やかなアミューズはシャンパ―ニュとの相性抜群
一方、井口シェフは、「スナック的にさくっと食べられる温かな料理を考えました。『アパナージュ ブリュット 1874』はとてもバランスのよいシャンパーニュ。あえてシャンパーニュにない味わい要素として、パプリカのスパイシーさをもってきました」という。
「優しい料理なのに、正面からぶつかっていくペアリング」と近藤ソムリエ。
ワインと料理とのペアリングには、シンクロ(同調)とコントラスト(対比)のアプローチがあるといわれるが、シンクロを追求した徳岡総料理長に対し、井口シェフはコントラストを狙った形だ。
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