150年の歴史を持つシャンパーニュメゾンが、星付きレストランと至高のペアリングを提案!


蛤がもつ磯の旨みと、シャンパーニュのミネラル感が最高のマリアージュに


次のシャンパーニュは「ポメリー アパナージュ ブラン・ド・ブラン」。シャルドネ100%のブラン・ド・ブランだが、珍しいことにピノ・ノワールの聖地であるモンターニュ・ド・ランス地区のシャルドネもブレンドしているのが特徴。

合わせた料理は徳岡総料理長の「蛤潮椀」。前日から10~12時間かけて水出しした昆布で出汁を取り、切れ目を入れた蛤に火を通した椀もの。カンボジアの有機コショウや木の芽で風味を整えている。

この椀が磯っぽいミネラル感の強いブラン・ド・ブランに合わないはずがない。

絶品料理とシャンパーニュの相乗効果に参加者たちも興味津々の様子


「ロジカルテイスティング」で知られる『An Di』の大越基裕ソムリエも、「フレーヴァーの点で日本料理はワインやシャンパーニュと合わせるのが難しいと考えられがちですが、日本料理とシャンパーニュには“うま味”という共通項があります」と語る。

瓶内熟成中、澱(発酵の役目を終えた酵母)とともに寝かされるシャンパーニュは、酵母の自己消化によりアミノ酸が液中に蓄積される。これがうま味成分だ。

ミネラルとうま味のダブル効果で、完璧なシンクロを決めたペアリングとなった。


伝説的なヴィンテージである2005年の一本を合わせて


3本目にはポメリーが誇るプレステージキュヴェ「ポメリー キュヴェ ルイーズ 2005」が登場。

シャルドネはアヴィーズとクラマン、ピノ・ノワールはアイといずれもグラン・クリュ。さらに区画にまでこだわり、細心の注意をもって造られた贅沢なキュヴェ。2005年の単一ヴィンテージで、ポメリーのピュアさを追求し長期熟成が施されている。

収穫からすでに20年近くを経ているにもかかわらず、フレッシュ感を少しも損なうことなく、複雑で緻密なレイヤーを重ねたフレーバーが素晴らしい。

新しい組み合わせを探究すべく、参加するシェフやソムリエたちの眼差しも真剣


この偉大なシャンパーニュに合わせ、井口シェフが手がけたひと皿は「真鯛のムニエル 発酵白菜と白ビーツ」。1週間寝かせた5キロサイズの鯛をムニエルにし、塩で発酵させた白菜にバターを加えてソースにした料理。

白身魚の女王というべき鯛を素材に、熟成によりうま味を増幅。長期熟成させた「キュヴェ・ルイーズ」との同調を図る。

『ファロ』の浜本拓晃シェフは、「ソースの酸味と塩味がポイントと感じました。酸味で同調させながら、あえてシャンパーニュが持っていない要素の塩味を加えたことが、とても良い効果をもたらしています」という。


ボリューミーな肉料理に合わせたシャンパーニュとは?


4本目は7つのグラン・クリュのブドウのみから造られる単一ヴィンテージの「ポメリー ミレジメ グラン・クリュ 2009」。

2009年という太陽に恵まれたヴィンテージを反映し、「球体のよう」とマダム・ポメリー賞を受賞した「パレスホテル東京」の山田琢馬ソムリエ。「15年の熟成を経ても若々しく、香りのレイヤー感が素晴らしい」という。

料理は徳岡総料理長に戻り、「厚切り平井牛シャトウブリアン 低温調理しゃぶ 鶏汐出汁あんじ」。

京都の平井牛をしゃぶしゃぶといいながら薄切りでなく、豪勢にも厚切りに。鶏に塩をまぶして出てきた酸化した体液を洗い流し、それを煮込んだスープであん仕立てにしている。トッピングには万願寺とうがらし。

ここでも決め手は「うま味」に違いなく、鶏汐出汁のうま味が2009年のミレジメと同調。牛肉にも負けない力強さは、ボリューム感のある2009年ならではであろう。

「植物性、動物性のうま味が出汁の量や濃さまで緻密に計算されていることに驚きました」と『ナベノ-イズム』の渡辺シェフ。

フレンチのシェフにとっても日本料理の「うま味」はおおいに参考になる模様だ。


もちろん〆のデザートにも、シャンパーニュを


最後のシャンパーニュは「ポメリー アパナージュ ブラン・ド・ノワール」。黒ブドウのムニエとピノ・ノワールのみから造られたこのキュヴェはフルーティでパワフル、と同時にエレガントさも兼ね備えている。

もちろん辛口だが、ラストを飾るひと皿は、井口シェフの「ネクタリンのコンポート ジャスミンの花 発酵はちみつのクリーム」というデザート。

「ジャスミンで清涼感を醸し出し、ヴァニラとロングペッパーのジュレでスパイス香を添えました」と井口シェフ。

パワフルかつエレガントというアンビバレントなシャンパーニュには、同調と対比をうまくコントロールすることでデザートととも合わせることが可能という、高度なペアリングのよいお手本である。

今回の試みを総括して、『神楽坂 石かわ』の石川料理長は、「シャンパーニュが美味しいと思い始めたのはここ2年くらい。ところがその頃からシャルドネの樽香が辛く感じられるようになってきたんです。私たちのつくる和食は素材そのもののよさを引き出す料理。シャンパーニュは和食がもつ自然のままの風味を生かし、寄り添ってくれる飲み物ということを再発見させてくれました」。


フレンチに限らず日本料理にも、いや日本料理にこそコースを通して楽しめることを証明したポメリーのシャンパーニュ。

とりわけ新アイテムの「ポメリー アパナージュ ブリュット 1874」は冷前菜からメインの肉料理まで、これ1本でコース全体とのペアリングも可能なヴァーサティリティの高さが印象的だった。

マダム・ポメリーが発案した美食のための“ブリュット”は、150年を経た現代、世界中のあらゆる食との可能性を引き出している。


文・柳 忠之

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