2024.12.10
ワイン選びをより楽しいものにするべく、東京カレンダーは映画とのマリアージュをご提案。
それぞれのスペシャリストが、勉強中の編集部員に指南!今夜はワインを片手に、おうちシネマはいかが?
▶前回:Vol.20「『ザ・メニュー』×フランスのタヴェル」
◆
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自我に目覚めたAIは、必ず創造主に牙をむく
柳:ねぇねぇ、クラリン(編集の嵩倉)。僕なんてそろそろお払い箱かもしれない。
嵩倉:えっ、いったいなにがどうしたんですか?
柳:最近話題のAI。あれに任せれば、ワインのテイスティングコメントもお茶の子さいさい、膨大なデータを解析して、そのワインが何点に値するかもポンと出てしまうに違いない。
嵩倉:でも、コンピューターはワインの香りを嗅いだり、味をみたりなんてできないのでは?
柳:そのためのセンサーを開発するのなんて少しも難しくないよ。ガスクロマトグラフィーでどういう香気成分が含まれているかは化学的に分かるし。
遠くない将来、世界最高のワイン評論家はAI!なんて時代がきっと来る。
新谷:柳さんがそんなことを言われるのも、この映画を見ていただいたから。2015年公開のSFスリラー『エクス・マキナ』です。
嵩倉:ロボット映画?
柳:ロボットというよりもアンドロイドと言うべきかな。AI、つまり高度な人工知能を持った。
嵩倉:どんなストーリーですか?
新谷:検索エンジン最大手のブルーブック社でプログラマーとして働くケイレブは、ある日社内の抽選に当たって、山奥の広大な私有地の中にあるブルーブック社CEOのネイサン邸を訪問。
そこで、ネイサンから彼が開発したAI組み込みの女性型アンドロイド、エヴァにチューリングテストをして、完成度を評価するよう頼まれます。
自我に目覚めたエヴァは自分に好意を寄せるケイレブを利用し、ネイサン邸からの脱出を試みて……というストーリーですね。
今月のワインシネマ『エクス・マキナ』
舞台は、人里離れた山奥にある謎めいた研究施設。プログラマーのケイレブがそこで出会ったのは、美しい女性型ロボットのエヴァ。
人間と人工知能の主従関係をめぐる心理戦を描いたSFスリラーで、メッシュ状の皮膚と透けて見えるエヴァの造形が何とも美しい!
第88回アカデミー賞®で視覚効果賞を受賞。
高度な人工知能を持つエヴァはロボットか?人間か?
人間と同じように思考し生活するエヴァが完璧な外見を手に入れたとしたら、その存在はロボットか、はたまた人間か?
物語のラストで明かされる実験結果に驚くとともに、見た人と語りたくなる!
◆
柳:自我を持ったアンドロイドが人類に反抗という設定は、80年代の『ブレードランナー』や『ターミネーター』からお決まり。
新谷:この作品の見どころが、アリシア・ヴィキャンデルが演じたエヴァの容姿です。
顔と手足だけ人間、そのほかの部分は透明になっていて内部構造が丸見え。どうやって撮影したのか感心しきりですが、2015年度のアカデミー賞視覚効果賞を受賞しています。
ところで柳さん、この映画にワインを飲むシーンがありましたが覚えてます?
柳:ええ、もちろん。メイドのキョウコがケイレブのグラスを倒してネイサンに叱責されるシーンですね。
日本人のキョウコが作った設定だからかな。ステレオタイプ的に料理は鮨っぽかった。毎日筋トレを欠かさないネイサンらしく、ダイエットの意味もあるのかも。なのに、飲んでるワインが赤ワイン(笑)。
ぎこちない手つきでケイレブが小皿に取ったのはマグロの赤身に見えたから、ピノ・ノワールならありだと思うけど、あのボトルはどう見たってカベルネ・ソーヴィニヨンだ。IT長者が飲むんだから、きっと、ナパのすごく高いヤツに違いない。
AIに支配された未来を憂いあえて飲むナチュラルワイン
嵩倉:AIのエヴァならワイン選びもソムリエ並みにばちっと決めちゃったりして?
新谷:柳さんが、この映画を観ながら飲みたいワインは?
柳:AIと超ハイテクで造ったワイン……というのは冗談で、むしろ真逆のナチュラルワインを飲み、行き過ぎたテクノロジーに依存する未来について考え直すのはどうだろう。それでこのワイン、カナリア諸島のテネリフェ島で造られた「エチェイデ」だ。
ブドウ品種のリスタン・ネグロは、かつて新大陸発見後にスペインの宣教師が南北アメリカ大陸に持ち込んだ、カリフォルニアのミッション、チリのパイスの祖先。
ワイン造りはハンズオフで、酸化防止剤無添加、無ろ過・無清澄で造られている。濃過ぎず、するするっと飲めて滋味深い味わい。
鮨と一緒なら、ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンなんかよりもこっちの方がずっと合うと思うけどね。
「MARZAGANA ECHEYDE 2022(マルサガナ エチェイデ2022)」
マリアージュをお届けするのはこの3人!
幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるワインジャーナリスト。AIが造るワインが完成したら、ぜひ最初にテイスティングを名乗り出たい。
映画を中心に、書いたり取材したり喋ったり。自分の脳にオプションでAIを搭載できるとしたら、面倒くさがらずに料理をサクサクッと作れる能力が欲しい、すごく欲しい。
本連載の担当になって5年目に。ワインの知識は着実に積み上がっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。敏腕AI編集者が出てきても、食い意地と飲み意地は負けないっ!
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