恋のジレンマ Vol.7

「内緒ですよ」とささやかれ…。新宿の眼科で28歳MRが惚れた、受付女性の“神対応”



― おいおい。会計だけで、もう20分以上待ってるぞ…。

翌日、諒也は新宿にある眼科クリニックを訪れていた。

待合室のソファに座りながら、スマートフォンで時刻を確認する。

診察を受けるのにも1時間以上待たされていたため、いらだちが募る。


昨日、職場で葵に指摘された目の異変。診察の結果は、ものもらいだった。

諒也は、寝不足やストレスが重なると度々ものもらいになる体質だ。これまでも、目薬を処方してもらいに眼科を訪れることが多かった。

治療を終えたばかりだが、左目の上瞼の違和感は拭えない。

― くっそう、あの先生のせいだ…。

MRとしての取引相手に、この時代に飲み会への参加を強要してくる医師がいるのだ。彼のせいで疲れが出たのだろう。

諒也は、思い返してはストレスを抱える。

クリニックには、幼い子どもからお年寄りまで幅広い世代の患者が訪れ、待合室は飽和状態だ。

忙しい諒也は、次の訪問先へのルートを考えてクリニックを選んだつもりだったが、完全に裏目に出た。

― ああ、早くしてくれよ。そろそろ出ないと間に合わないぞ。

次のアポの時間が迫ってきている。

移動の最短ルートを思い描きながら、正面にある受付の様子を観察した。

カウンターの高さに頭が届かないくらいの身長の子どもが、受付の女性に何やら話しかけている。

明らかに無駄話ではあるものの、女性は手元を忙しなく動かしながらも、にこやかに対応している。

― こんなに混んでるのに、よくあれだけ丁寧に対応できるなぁ…。

その女性は先ほども、お年寄りが持ち出した気候に関する長話に耳を傾け、対応していた。

そんな姿を見ていただけに、諒也は感心する。


― ああ、もう限界だ。出ないと間に合わないや。

タイムリミットがきてしまい、やむを得ず立ち上がって受付に向かう。

「すみません…」

声をかけると、受付の女性が顔をあげ、口角をあげた穏やかな表情で返事をした。

「吉沢ですけど、お会計の順番ってまだでしょうか?」

「申し訳ありません。もう少々お待ちいただけますでしょうか」

「あの。実はこのあと、仕事のアポが入っていまして…」

諒也は、手もとに用意していた名刺をカウンターの上に置いた。

会社名を見た女性は、諒也がMRであることに気づき、「いつもお世話になっています」と挨拶を述べる。

「少しの時間、抜けさせていただけないでしょうか。先方への挨拶が済み次第、すぐに戻ってくるので。そんなに時間もかからないと思います」

諒也が速やかに用件を伝えると、女性は少し困った表情を浮かべて、後ろを振り返った。

背後のデスクでは、もうひとりの受付担当の女性が事務作業をおこなっていた。

女性はひとつ頷くと、「わかりました」と呟いた。

「これは内緒ということで…」

周囲を気にかけながら諒也に顔を寄せ、小声で囁いた。

「ありがとうございます。助かります」

「では、お待ちしています。行ってらっしゃいませ」

女性は一礼すると、すぐにまたパソコンの画面を眺めてキーボードを打ち始める。

諒也はその様子を気にかけながら、クリニックの玄関を出た。

一旦立ち止まり、ガラス扉越しに受付を覗く。

胸の奥がじわっと熱を帯びるような感覚をおぼえた。

後ほど戻ってくるのは会計のためではあるものの、再会する約束を交わしているかのようで気持ちが弾んだ。

この記事へのコメント

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No Name
あーぁ、またまた全く応援したいと思えない主人公。
ものもらいになったのを飲み会に誘う医師のせいにするのもどうなんだ。
2024/10/14 05:2916返信4件
No Name
この連載は正直内容も文章もいまひとつ。
くっそう、くっそう ってこっちが言いたいわ。
2024/10/14 05:3212
No Name
このまま引き下がるのは男としても、トップセールスマンとしても、プライドが許さない。

なら自分で何とかしろよ。担当の同僚に頼んで何とかしてもらおうとかダサいにもほどがある。
偉そうなこと言ってるくせに自力では何もできないタイプか笑
そもそも仕事のつながり利用してアプローチしようなんて職権濫用だろうが。
仕事とプライベートは分けるんじゃなかったのかよ。
2024/10/14 07:1312
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