2024.08.31
アオハルなんて甘すぎる Vol.28「どんなに華やかな場所もすごい人達との交流も、宝ちゃんが苦しいなら参加する必要はないし、手放してもいいの。
自分より経験値の高い相手との恋って…社会的地位やステータス…年齢の差とかになるべく引け目を感じないように、対等をキープする努力が必要だと思う。
伊東さんの常識はあくまでも伊東さんの常識で、宝ちゃんの常識ではないっていうのが大前提で、受け入れるも受け入れないも宝ちゃんの自由ってことを忘れないでね」
もちろん、伊東さんは話せば絶対にわかってくれる人だと思うしね、と愛さんは続けた。
「でね、もう一つ。もし、宝ちゃんがこれから伊東さんに素晴らしい世界を見せてもらったり経験させてもらったりして尊敬の念が膨らんだとする。そして、そんな伊東さんに相応しい人になりたい、ならなきゃという気持ちが生まれたなら。
その時は焦っちゃダメ。私みたいに彼はすごいのに私はダメ…って感じて相手と自分を比べて卑下したり、相手に染まるための無理をするんじゃなくて、宝ちゃん自身をアップデートさせる何かを見つける努力をしてみて欲しい」
「…アップデート…?」
「例えば、何かの勉強を始めるとか、資格を取るとか、なんでもいいんだけれど、できれば伊東さんとは関係ない世界で、夢中になれることを見つけるの。自分の世界の全てを相手に委ねないってことね。
たとえ相手が大好きな人であろうと、支配を許してはダメだし、全てをゆだねないようにする。そう決めればおのずと自分で動くしかなくなるでしょ?そんな行動を続けていたら、そのうちに、私なんかが…って思うヒマはなくなると思うから。
伊東さんが好きになってくれた宝ちゃんを、宝ちゃん自身が卑下したりないがしろにしたりするのは、伊東さんにも失礼なことなんだよね。そのためにも愛されている自分自身を自分が大切にし続ける。そんな努力を続けていけたら2人の恋はきっと…」
愛さんが言葉を切ったと同時に、なになに、恋バナですかぁ?と、制服に着替えて店内を回っていたともみちゃんが戻ってきて、グラスを洗い始めた。
ともみちゃんは最近どうなの?いやぁ最近全然出会いがないんですよぉ、愛さんは?という2人のやりとりがとてもかわいらしい。
相手が好きになってくれた自分を卑下するのは、相手にも失礼。愛されてる自分を大切にする。相手の色に染まらないアップデート。
愛さんのそれらの言葉を反芻し、シャンパーニュを口にしながら…私はこの日のことを…きっと、いつまでも忘れられないだろうなと思った。
◆
「ご相談させて頂きたいことがあって…少しお時間いただいてもいいでしょうか?」
愛さんと話してから約1週間後。上司のクレアにそう申し込むと、クレアは少し驚いた顔になったけれど、すぐに優しく答えてくれた。
「So, it’s finally time for you to consider your career, right?(あなたが自分自身のキャリアについて考える時が、ついにきたってことよね?)」
Yes, it’s finally time. 私がそう答えるとクレアはうれしそうに、今からミーティングルームで話しましょうと席を立ち、私を促してくれた。歩き出したクレアの後ろ姿を、私は、よし、と小さく気合を入れてから、追った。
▶前回:「“うらやましい”は、ヒント」女性がデート中に惚れ直した、男が語る人生教訓とは
▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…
次回は、9月7日 土曜更新予定!
小説の話なのに、そうだよなと我ながら考えさせられるよ。
そして、宝は伊東さんと付き合えることになって良かったねぇ🥺
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