アオハルなんて甘すぎる Vol.20

「もう少しだけ、このままでいいかな?」初デート中、東京タワーまでの道で突然手を握られて…

それがどういうことなのか尋ねてみたけれど、今はまだ自分の感情を言葉に変換できないと言われてその会話はそれきりとなった。

モツ鍋は本当においしかった。店長が修行した老舗店のモツと同じ処理が行われているらしく、新鮮なモツを店内でカットすることにこだわり、その後水洗いしさらに湯通しして旨味を閉じ込めるという工夫がされているそうだ。

キャベツを大盛にしたこともあって、お腹はパンパンで幸せに満たされた。会計は、今日は教えを乞う側なのでと主張し続けた私が勝ち、支払わせてもらった。

「今日、アルコールを頼まずに申し訳なかったです」

そう謝った大輝くんに、予約の際にそれでも良いかと聞いてくださいましたし、うちはノンアルでも大丈夫な店なので気にしないでください、と店長さんが答えるやり取りに私も参加しながら、また絶対に来ますね、と約束して店を出た。

「次は東京タワーに行くつもりだけど、いいかな?」


大輝くんにそう言われて頷いた。恵比寿駅から日比谷線で六本木へ。大江戸線に乗り換えて大門で降りた。地上に上がるとすぐに大きく見える東京タワーを目指しながら、私は聞いた。

「なんで、酔いがまわらない方が練習になりそうだし、って言ったの?」

私は、お酒がとにかく大好き!というタイプではないし、ノンアルコールでも全く食事はできる。でも大人のデートにアルコールはつきものだと思っていたので、大輝くんの提案が意外だったのだ。

「本番のデートなら、アルコールの力を借りて勢いをつけられるときもあると思うけど、練習なんだから、宝ちゃんが酔って大胆になっても何の意味もないでしょ?」
「大輝くんとの練習なのに?」

大胆になるわけないのに、と笑った私に、うん、その通りなんだけどさ、と大輝くんも笑った。

増上寺に沿って歩き、プリンスホテルを通りすぎると、東京タワーがどんどん近づいてくる。吐く息は白くそれなりに寒いけれど、冬の方がこの、東京のシンボルは美しく見える気がする。東京に来てもう10年になるというのに、何度見ても飽きることのないオレンジの光に見惚れていると、確かにその通りなんだけどさ、ともう一度大輝くんが言った。

その言葉の意図が分からず、大輝くんを見上げた瞬間、お互いの手の甲が触れた。あ、ごめんねと謝ると、グッと手を繋がれた。

「…大輝くん?」

これも練習?そう聞いた私に大輝くんがほほ笑んだ。

「練習というか、確認させて。いい?」

いい?って言うけど既に繋いじゃってるよね?と私が突っ込むと大輝くんは、宝ちゃんはだいぶオレに驚かなくなったよねと苦笑いになった。

確かに。大輝くんに慣れたというべきなのかも。それにさっきの衝撃、手の甲へのキスに比べたらこれくらいは…なんてことを考えていると、ふと、手の握り方が変えられた。

― これは…恋人繋ぎってやつでは。

さすがにドキッとして、大輝くん?と見上げると、優しい瞳で見下ろされていた。

「もう少しだけ、このままでもいいかな?」
「…いい、けど」
「京子さんともこうやって歩いたなって。教えるって言いながらね」

京子さんとは大輝くんの恋人の名前だったはず…と記憶を辿りよせながら、聞いた。

「教えるって…何を?」
「恋を。私に恋を教えてくれない?って京子さんに言われて。初めて手をつないで歩いたその日に始まったんだ」


▶前回:「新しい男で上書きしないと、古い恋の傷は癒えない」デートでの猛アタックに戸惑う28歳女に友人は…

▶1話目はこちら:27歳の総合職女子。武蔵小金井から、港区西麻布に引っ越した理由とは…

次回は、7月6日 土曜更新予定!

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この記事へのコメント

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No Name
先週更新がなくてガッカリしたけれど今日読めて相変わらずの内容で大満足。今日の様子を伊東さんが偶然見かけたりしていない事を祈る!!
2024/06/29 06:0339
No Name
モツ鍋食べたくなった♡ 季節は逆だけど。
2024/06/29 06:0534返信1件
No Name
キャーー、大輝、宝を好きになっちゃった🥺⁉️
2024/06/29 06:4532返信1件
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