「…どうした?」
おずおずと問いかけると、春奈は眉をハの字にしながら苦笑いした。
「う、ううん。…実は来週の水曜、私の誕生日なの。会えたらいいなって勝手に思ってたから、つい寂しくて」
ごまかすように、彼女はハハッと笑った。
「マジか。誕生日なんて、知らなかった。…日本にいたら、絶対当日に会いに行ったのに」
「でも当日って水曜よ?」
彼女は「どうせ忙しいでしょう」と言わんばかりに、いたずらっぽく微笑んだ。
「どれだけ仕事があっても会いに行ったよ」
ウソっぽく聞こえたのか、春奈は首をかしげて笑っている。
「いや、いいのよ。賢人くんの忙しさはわかってる。…それに、当日に祝ってもらえるような関係でもないし」
― 春奈に、寂しい思いをさせてる。しかも本気度が全然伝わってない。
もし誕生日当日に祝えたら、最高のアピールになったのに。僕は出張があることを、もどかしく思った。
◆
翌日。
「はぁ、困ったな…」
アメリカ出張のパッキングを始めたが、遅々として進まない。気づけば、春奈の誕生日をどうお祝いしたらいいかを考えているから。
たとえ出張中でも、LINEでメッセージを送るだけなら簡単だ。でも、それで自分の本気度が伝わるのだろうか。
― 「ただの友達ではない」ってわかるような、一味違う祝い方がしたいんだけど…。
僕はパッキングを中断し、ソファに腰掛ける。そしてInstagramであれこれ検索していると、ある投稿が目についた。
― ジルスチュアート ビューティのLINEギフトか。あ、住所がわからなくても贈れるんだ。
その投稿を読み進めていくと、どうやらジルスチュアート ビューティからLINEギフト限定のバースデーボックスが出ているらしい。
箱を開くと手元でバラの花びらが広がる、花束のようなデザインになっているようで、これなら印象に残りそうでいいなと思った。
さっそくショップページを開き、どんなアイテムを贈れるのかチェックしてみる。
「結構、いろいろあるんだな」
予想以上に、豊富なラインナップだ。3,000円台のものから6,000円台まで、様々な価格帯のものがそろっている。
「どれだったら、喜んでくれるかなぁ」
◆
こうして迎えた、ニューヨーク出張。仕事終わりにディナーを食べ、早足で5番街のホテルに戻った僕は、LINEを開く。
ニューヨークは23時を回ったところ。日本は今ちょうど、春奈の誕生日当日のランチタイムだ。
「よし、計画通りに」
ジルスチュアート ビューティのLINEギフトページ(※スマホのみから閲覧可能)を開くと、前々から決めていたヘアオイルとハンドクリームのセット画像をタップした。
前回のディナーデート中、春奈が「最近、髪がパサついて…」と困った顔で言っていたからだ。
お祝いのメッセージとともに、送信ボタンを押す。
― 喜んでくれるといいなあ。
きっと気持ちは伝わるはず。僕は春奈の喜ぶ顔を思い浮かべながら、眠りについた。