商社で営業職として働く、賢人(33)。
日々の業務に忙殺されている彼はある日「付き合いたい」と思える女性に出会った。
6つ年下で、同じ業界で働いている春奈だ。
とはいえ、仕事のせいでデートの時間がなかなかとれず、恋愛が思うように進まない。
それでも彼女に“本気”を伝えるために、賢人が選んだ手段とは――。
商社勤務・賢人(33)「彼女に、本気だと伝えたくて…」
金曜18時。待ち合わせの代官山駅には、春奈のほうが早く到着していた。タクシーを降りた瞬間、スマホを見ている彼女の姿が、目に飛び込んでくる。
僕は柄にもなく湧き上がる緊張を、小さな咳払いでごまかしながら近づいた。
「ごめん、お待たせ」
「ああ、賢人くん!お疲れさま」
大学時代の友人に春奈を紹介してもらってから、そろそろ1ヶ月が経つ。
「彼女も商社で働いてるから、合うんじゃないかと思って」と紹介してくれたそいつは、ファインプレーだ。
春奈は同じ商社勤務とはいえ会社は違うし、総合職と一般職という違いもあるけれど、僕の忙しさを理解してくれる。
「賢人くん、タクシーで来たんだね。忙しいんでしょう?駆けつけてくれてありがとう」
その笑顔に、肩にまとわりつく疲れがふっと緩んだ。そして僕たちは、予約しているレストランに向かって歩き出す。
本当は春奈ともっと頻繁に会いたいけれど、デートは今日でやっと2回目。仕事が忙しく、なかなか時間がとれない。
「私ね、今日はいつもより仕事が捗っちゃった。会えるのが楽しみで、やる気がぐんぐん湧いて」
「なにそれ、嬉しいな」
― なかなか会えてないのに、いい雰囲気だ。
もう付き合えそうな気さえする。ただ、2回目のデートで告白は焦りすぎだろう。
はやる気持ちを落ち着かせようと、僕は仕事の話を切り出した。
「実は明後日から10日間、アメリカに出張なんだ。お土産、楽しみにしてて」
きっと春奈は喜んでくれる。そう思ったのに、横にいる彼女はなぜか「うーん」と気難しそうな表情になった。
― なんだ?僕、なんか言った?